知将ルイージが聴かせたカンタービレあふれるロマン派の王道プログラム
NHK交響楽団が首席指揮者ファビオ・ルイージと共に開始した新シーズン、二つ目の定期公演となるBプログラムは、ドイツ・ロマン派を代表する作品群で固めた王道の一夜。しかし知将ルイージの戦略は、ひと味もふた味も違っていた。N響のDNAにもあるドイツ的で重厚な響きのいわば対極にある、足取りの軽い引き締まったカンタービレあふれるイタリア的な気質に染まった、劇的なロマン派を志向していたのだ。
歌の国イタリア出身のマエストロのこと、冒頭に置いたウェーバーの歌劇「オベロン」序曲から、チャーミングな歌謡性が顔を出す。柔らかく浮遊する導入部を経て、主部に入ると、快適な推進力に満ちたリズミカルな運びで主題群を展開し、シャープな造形を導く。木管セクションによる合いの手が優雅な味わいを醸し、爽快な幕開けを形作った。
続くブラームスのヴァイオリン協奏曲で独奏を務めたのは、ドイツ人を両親にイタリアで生まれ育ったアウグスティン・ハーデリヒ。N響への登場は2回目の実力派だ。研ぎ澄まされた細身の美音を切れ味よく繰り出し、内的緊張感の高いソロで魅了した。感情を冷静に制御し、無用な粘りを排した解釈は、ルイージの狙う方向性とも合致し、有意な協働を実現。10年前のCD録音とは別人のような充実ぶりを示した。
したがって長大な第1楽章からソロは気迫十分で、フレージングは清潔、歌い込みに内面的な充足感が表れる。自作のカデンツァは二つの主題や経過句を巧みに交錯させ、技巧的な作りで印象付けた。ルイージは独奏とのバランスに細心の注意を払ってN響を抑え、音量やニュアンスを的確にコントロール。合わせ物でのセンスを見せつけた。
第2楽章冒頭ではオーボエ(𠮷村結実)を核とした精妙なアンサンブルに心を奪われる。ソリストも心のこもった清澄な叙情を、語るように紡ぎ出した。終楽章、アレグロ・ジョコーソの躍動感は強じんなリズムに支えられ、開放的な勢いを保ったまま結びに至った。
後半はメーンのシューマンの交響曲第4番ニ短調。ルイージは緩急巧みな設計で、うっそうとしたシューマネスクな世界に、一陣の風が舞い立つようなフレッシュな息吹を持ち込んだ。優れた機能性を誇るN響も、鋭敏な反応でルイージの求める音世界を築いた。
第1楽章主部からテンポの速い精力的なドライブで運動性が高く、起伏が豊か。ヴァイオリンの郷古廉とチェロの辻󠄀本玲が艶やかな歌を流麗に聞かせた第2楽章も流動感が強い。ダイナミックで鋭い力感を示すA部と優美(ドルチェ)で柔軟なB部の対比の妙が際立つ第3楽章を経て、快速級の終楽章に進むと、ドラマチックな高揚感のうちに、強壮な幕切れへ一気呵成に突き進んだ。
(深瀬 満)
公演データ
NHK交響楽団第2070回 定期公演Bプログラム
9月17日(木)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン:アウグスティン・ハーデリヒ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉
プログラム
ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
シューマン:交響曲第4番 ニ短調 Op.120(改訂版)
ソリスト・アンコール
シューマン(ハーデリヒ編):トロイメライ
他日公演
9月18日 (金)19:00 サントリーホール 大ホール
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










