庄司紗矢香 × カメラータ・ザルツブルク

モーツァルト演奏の新たな姿が示された演奏会

「庄司紗矢香×カメラータ・ザルツブルク」の公演。名匠ヴェーグのもとで名を上げた同楽団は今回、クルレンツィス/ムジカエテルナ創設時のコンサートマスターであるヴァイオリニスト、アファナシー・チュピンが芸術監督&コンサートマスターを務める。指揮者はおらず、弦の編成は6-6-4-4-2で、基本的にはモダン仕様だ。プログラムはオール・モーツァルト。庄司がソロを弾くヴァイオリン協奏曲第4番と第5番「トルコ風」の間に交響曲第41番「ジュピター」が挟まれる。

庄司紗矢香×カメラータ・ザルツブルクの公演。コンサートマスターはアファナシー・チュピンが務めた
庄司紗矢香×カメラータ・ザルツブルクの公演。コンサートマスターはアファナシー・チュピンが務めた ©︎Ayano Tomozawa

結果は、予想されそうな「愉悦感に満ちた音楽」とは若干違っていた。協奏曲では庄司も前奏の管弦楽部分から楽しげに参加していたし、指揮者の専横もないのだが、実際繰り広げられたのは、〝艶やかながらも、張り詰めた楽興の時〟だった。
以前ガット弦とクラシック弓を用いたモーツァルトのソナタを演奏&録音していた庄司も、今回は通常のモダン仕様。だが明らかにその成果を咀嚼(そしゃく)したと思える表現を聴かせた。すなわち「音は艶やかだが、流麗・甘美に過ぎない」「ストレートで引き締まった実在感のある」演奏だ。ヴィブラートの有無が緻密に弾き分けられ、強弱も明確で、〝硬質ながらも潤いのある〟独奏が耳に届く。また、庄司自作のカデンツァはどれも長めでじっくりと弾かれ、その間はまさしく〝張り詰めた空気感〟に包まれた。

庄司が自作のカデンツァを演奏する間は〝張り詰めた空気感〟に包まれた©︎Ayano Tomozawa

オーケストラは、ヴィブラート控えめの筋肉質の表現だが、達者な奏者揃いと相まって、栄養不足の痩せた音にはならない。間の「ジュピター」交響曲のみ加わったトランペットとティンパニはピリオド仕様。そうでないホルンも含めた直進的な音が新鮮な効果をもたらした。同曲の大胆なディナミークや後半楽章の快速演奏は実に刺激的。また、協奏曲第5番第3楽章の「トルコ風」部分の明快な民俗色など、協奏曲でも曲の特性に沿った的確・緻密な表現が展開された。

達者な奏者が揃ったオーケストラは、ヴィブラート控えめの筋肉質の表現
達者な奏者が揃ったオーケストラは、ヴィブラート控えめの筋肉質の表現 ©︎Ayano Tomozawa

前半にオーケストラのみのアンコールで、珍しいモーツァルトの英雄劇「エジプトの王、ターモス」第5曲が披露され、颯爽(さっそう)たる音楽が貴重な体験をもたらした。最後の庄司のアンコールは、弦楽五重奏とのシューマン「夕べの歌」(原曲はピアノ連弾。編曲は庄司自身)。いずれもセンス抜群だ。

今回は、ピリオド楽器や奏法も、ひいてはHIPという考え方も、全てを掌握した上でさらにその先へと向かう、モーツァルト演奏の新たな姿(もしくは現在形)が示されたと言えるだろう。

(柴田克彦)

モーツァルト演奏の新たな姿が示された演奏会だった ©︎Ayano Tomozawa

公演データ

庄司紗矢香 × カメラータ・ザルツブルク

6月10日(水) 19:00サントリーホール 大ホール

ヴァイオリン:庄司紗矢香
室内オーケストラ:カメラータ・ザルツブルク
コンサートマスター:アファナシー・チュピン

プログラム
モーツァルト
:ヴァイオリン協奏曲 第4番 ニ長調 K.218
:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219「トルコ風」

オーケストラ・アンコール
モーツァルト:エジプトの王ターモス K.345(第5曲)

ヴァイオリン・アンコール
シューマン(庄司紗矢香編曲):夕べの歌 Op.85-12

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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