セバスティアン・ヴァイグレ指揮 読売日本交響楽団 第694回名曲シリーズ

ドイツ・ロマンの「濃厚」をたっぷりと

1899年のベーメから2005年のヘンツェまで100年あまりの間に初演された多彩なドイツ音楽を特集、「名曲シリーズ」にしては濃厚なラインナップを堪能した。

20世紀後半のドイツを代表する作曲家、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ(1926―2012)と読響の縁は深い。ヴァイグレの3代前の常任指揮者、ゲルト・アルブレヒトが2000年のカナリア諸島音楽祭で読響と世界初演した「7つのボレロ」は2019年にヴァイグレの就任披露定期で再演。アルブレヒトはドイツ語オペラ「裏切られた海」も三島由紀夫の原作と同じ日本語の「午後の曳航」に作り直し、2003年に読響と世界初演した。

セバスティアン・ヴァイグレが指揮台に立ち、読響と縁の深いヘンツェの作品他、濃厚なプログラムを披露した
セバスティアン・ヴァイグレが指揮台に立ち、読響と縁の深いヘンツェの作品他、濃厚なプログラムを披露した ©読響 撮影=平舘 平 ※写真は7月19日に横浜みなとみらいホールにて行われた同内容公演より

ヴァイグレはヘンツェ生誕100年に因み、自身とファーストネームを共有する晩年の作品「夢見るセバスティアン」の日本初演に臨んだ。夭折の表現主義詩人、ザルツブルク出身のゲオルク・トラークル(1887―1914)の同名の詩に基づく15分ほどの管弦楽曲。管の首席奏者たちの色とりどりのソロが、狂気と死臭が入り混じるダークな世界に差し込む光のように輝き、不思議なロマンティシズムを漂わせるが、最後はトラークルの宿命と同じく唐突に終わる。ヴァイグレの共感あふれる指揮に賞賛が集まった。

オスカー・ベーメは1870年にドレスデン近郊で生まれたが、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場管弦楽団にコルネット奏者として入団、ロシア国籍を取得して作曲や教育にも携わった。革命後はドイツ人という理由でスターリンの大粛清に巻き込まれ、1938年に銃殺されたという。トランペット協奏曲はシューマンを思わせるドイツ・ロマン派の熱い響き、旋律美を備えている。1899年の初演当時と現在では楽器の仕様が異なるため、今回も(半音高い)ヘ短調の編曲版で演奏した。1965年リューベック生まれのマティアス・ヘフスはドイツを代表する金管アンサンブル「ジャーマン・ブラス」のメンバーを務め、日本でも多くのファンを持つ。今回はEs管とC管、2つのトランペットを駆使して繊細な弱音から朗々と円やかなフォルテまで、全くムラのない音色、どこまでもニュアンス豊かに歌わせる音楽性で楽曲の真価を伝えた。アンコールのリンドベルイ作品では楽器をフリューゲルホルンに替え、ヴァイグレ指揮読響を従えた。

ベーメのトランペット協奏曲でソリストを務めたマティアス・ヘフスが、豊かな音楽性で楽曲の真価を伝えた
ベーメのトランペット協奏曲でソリストを務めたマティアス・ヘフスが、豊かな音楽性で楽曲の真価を伝えた ©読響 撮影=平舘 平 ※写真は7月19日に横浜みなとみらいホールにて行われた同内容公演より

後半は演奏時間50分に及んだ「アルプス交響曲」。リヒャルト・シュトラウスでは1週間前の第660回定期演奏会の最後を飾った交響詩「死と変容」の出来栄えがあまりにも素晴らしく、ヴァイグレも「〝私のオーケストラ〟がついに、ここまでのシュトラウス・サウンドを奏でた」と、大変な感激ぶりだった。「今回も」と期待したが、酷暑の影響か難易度の違いか、やや淡白な演奏のように思えた。それでも読響とともに「ばらの騎士」(2017年、東京二期会)、「サロメ」(2019年、東京二期会)、「エレクトラ」(2024年、東京・春・音楽祭)とシュトラウス歌劇の体験を深め、交響詩も折に触れて指揮してきた成果は随所に現れ、とりわけホルンとトランペットのチーム、オーボエやイングリッシュ・ホルン、クラリネットなどのソロが強い色香を放つ。弦楽合奏の甘美で芳醇な音色と歌い回しも、歌劇の延長線上にある。ヴァイグレの基本が過度の芝居を避け、作曲家個人の人生観や自然観照にどこまでも寄り添う姿勢だったので、スペクタクルを期待した人々は、この点でも肩透かしをくらったかもしれない。

(池田卓夫)

リヒャルト・シュトラウス「アルプス交響曲」は、作曲家個人の人生観や自然観照にどこまでも寄り添う演奏だった
リヒャルト・シュトラウス「アルプス交響曲」は、作曲家個人の人生観や自然観照にどこまでも寄り添う演奏だった ©読響 撮影=平舘 平 ※写真は7月19日に横浜みなとみらいホールにて行われた同内容公演より

公演データ

読売日本交響楽団 第694回名曲シリーズ

7月21日(火)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
トランペット:マティアス・ヘフス
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:林 悠介

プログラム
ヘンツェ:夢見るセバスティアン(日本初演)
ベーメ:トランペット協奏曲 ヘ短調 Op.18(マティアス・ヘフス編)
リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲 Op.64

ソリスト・アンコール
リンドベルイ(ヘフス編):ダーラナの夏の牧舎の古い賛美歌

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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