瑞々しく輝くソロと秀逸なオーケストラが結実した「ドン・キホーテ」
東京都交響楽団の9月の定期演奏会Bシリーズ。芸術顧問(前・音楽監督)・大野和士の指揮で、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(独奏:シモン・トルプチェスキ)と、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」(チェロ:伊東裕、ヴィオラ:篠﨑友美[共に都響首席奏者])が披露された。
ラフマニノフは、トルプチェスキがこの難曲を衒(てら)いなく弾き切る圧巻の名演を展開した。冒頭の独奏による主題が優しく柔らかく奏され、最初の間はロシアの広大な大地よりも暖炉のある家庭の居間を想起させられたが、高揚場面になるとダイナミックに盛り上がり、ピアノだけの箇所は極めて濃密。すなわち音量や音色が幅広く、表現が明瞭・的確だ。おかげでロマン性とモダン性を併せ持つ引き締まった音楽が生み出された。マケドニア生まれの彼は、2006年に大野の招きで日本デビューを果たし、今回は大野の「円熟の域にある彼と再び日本で共演したい」との要望で招かれたというだけあって、バックとの相性も抜群。同曲のピアノの動きがこれほどオーケストラに消されず耳に届くことも珍しい。トルプチェスキは強靭(きょうじん)な奏法ではないのに音に芯があり、大野はオーケストラを十分に響かせながらもピアノとのバランスに細心の注意を払う。今回はそれゆえに実現した快演だろう。
ソロのアンコールは一転豪快に弾むプロコフィエフのソナタ第7番の第3楽章。これで聴衆を圧倒した後に何と日本の童謡「村まつり」の自作パラフレーズを聴かせ、皆を喜ばせた。
後半の「ドン・キホーテ」は、都響のメンバーをソリストに立てたことが効果を発揮した、まさしく交響詩的な好演。伊東は安定した技巧で丁寧なソロを奏でたが、曲自体は決して協奏曲風にならず、大オーケストラにドン・キホーテが無謀に立ち向かう本来の内容に則した音楽が形成された。それでいて伊東は完全なソロ部分になると重層的で雄弁な演奏を聴かせた。さらに特筆すべきはヴィオラの篠﨑。出番こそ少ないが、常に芳醇(ほうじゅん)なソロを奏で、本作における同楽器の重要性を明示した。そして何より豊潤で見通しの良いオーケストラが秀逸。終始表情細やかな音楽を紡ぎ出し、様々な楽器のソロはどれも瑞々しく輝いている。従って今回は、大野&都響のコンビネーションの良さが生かされた、聴き応えのある交響物語と相成った。
(柴田克彦)
公演データ
東京都交響楽団 第1051回定期演奏会Bシリーズ
9月4日(金)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:大野 和士
ピアノ:シモン・トルプチェスキ
チェロ:伊東 裕
ヴィオラ:篠﨑 友美
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部 達哉
プログラム
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」Op.35
ソリスト・アンコール
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調 Op.83「戦争ソナタ」より 第3楽章
童謡:村まつり
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










