ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル

気高くも熱きポーランドの魂

第15回ショパン国際ピアノコンクールの優勝者、ブレハッチのリサイタル。マズルカ5作品とソナタ第2番というオール・ショパン・プログラム。会場はファンの熱気に包まれ、客席には同じポーランドの名ピアニスト、ツィメルマンの姿も。前半はパリ時代初期から晩年までの4つの作品集。ショパンのマズルカを構成する3つのポーランドのダンス(マズル、クヤヴィアク、オベレク)が明快に示され、作品41の3などはダイナミックな踊りが目に浮かぶよう。息を潜めた弱音が印象的なクヤヴィアクとルバートがわずかな心の動きを伝えるマズルからなる作品17の4がすばらしい。音色の選択、ルバートを効かせた歌い回しなどすべてが考え抜かれていて味わい深いと同時に、人間的な温(ぬく)もりと素朴な質感がある。

オール・ショパン・プログラムを披露したブレハッチ
オール・ショパン・プログラムを披露したブレハッチ

後半、作品24の終曲から同じ調性のソナタにそのまま続けたかったのだろう。弾き終えて座ったままだったが、会場の観客の控え目な拍手に促され、立ち上がってお辞儀。仕切り直して弾き始めた第1楽章は、マズルカから一変、気合の入ったタッチで暗い情熱を迸(ほとばし)らせる。気魄(きはく)の籠(こ)もったスケルツォに続く「葬送行進曲」は重心の低いサウンドで雲の挟間(はざま)から差し込む清浄な光のようなトリオとの対比が鮮やか。再現部でいっそう音は重みを増して地の底へと沈み、消えていく。そして不気味な趣の終楽章で締め括(くく)った。アンコールはマズルカ作品6の2を挟んで、「英雄」「軍隊」ポロネーズ。コンクールから19年余、繊細で透き通るような感性の若者は知情意の揃(そろ)ったスケールの大きな音楽家に成長、気高くも熱いポーランドの魂を伝えて感動的だった。

スケールの大きな音楽家へと成長を遂げたブレハッチによる感動的な演奏会だった
スケールの大きな音楽家へと成長を遂げたブレハッチによる感動的な演奏会だった

(那須田務)

公演データ

ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル

2024年2月20日(火)19:00ミューザ川崎シンフォニーホール

プログラム
ショパン:
4つのマズルカOp.17
4つのマズルカOp.41
3つのマズルカOp.50
3つのマズルカOp.63
休憩
4つのマズルカOp.24
ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調「葬送」Op.35 

アンコール
ショパン:
ポロネーズ第6番「英雄」変イ長調 Op.53
マズルカ 嬰ハ短調 Op.6-2
ポロネーズ第3番「軍隊」イ長調 Op.40-1

那須田 務
那須田 務

なすだ・つとむ

音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。

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