カーチュン・ウォン 日フィルとの新たな船出に喝采……23年10月

コロナ禍に救世主のごとく日本のオーケストラ界に現れたカーチュン・ウォン。この度日本フィルの首席指揮者に就任した (C)山口敦
コロナ禍に救世主のごとく日本のオーケストラ界に現れたカーチュン・ウォン。この度日本フィルの首席指揮者に就任した (C)山口敦

海外オケやアーティストの来日公演が相次ぎ、毎日が音楽祭のような芸術の秋。「先月のピカイチ、来月のイチオシ」、今回は10月に開催されたステージからピカイチを、12月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきます。

先月のピカイチ

◆◆10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京都交響楽団 第985回定期演奏会Aシリーズ〉

10月30日(月)東京文化会館

オスモ・ヴァンスカ(指揮)

シベリウス:交響曲第5番、第6番、第7番

次点

〈オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

10月18日(水)東京芸術劇場コンサートホール

クラウス・マケラ(指揮)

シベリウス:交響曲第2番、第5番

コメント

~見事なシベリウス・プロ 兄たり難く、弟たり難し~

10月はいい演奏会が目白押し。オペラでもバッハ・コレギウム・ジャパンの「ジュリオ・チェーザレ」と二期会の「ドン・カルロ」をピカイチと次点とに挙げたいところだったが、さんざん迷った末に、これも筆者の好きなシベリウス・プロ2点をセットにすることにした。体当たり的な熱演のオスロ・フィル、緻密で切れのいい東京都響。フィンランドの若手とベテランの2人の指揮者が織り成した見事なシベリウス。ともに兄たり難く、弟たり難し。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈クリスチャン・ツィメルマン・ピアノ・リサイタル〉

12月2日(土)横浜みなとみらいホール/4日(月)、13日(水)サントリーホール/6日(水)水戸芸術館/9日(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール/16日(土)所沢市民文化センター ミューズ アークホール

クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)

ショパン:夜想曲第2、5、16、18番/同:ピアノ・ソナタ第2番「葬送」/ドビュッシー:「版画」/シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲

11月より2か月にわたり日本各地でリサイタルを開催しているツィメルマン (C)Bartek Barczyk
11月より2か月にわたり日本各地でリサイタルを開催しているツィメルマン (C)Bartek Barczyk

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〈読売日本交響楽団 第633回定期演奏会〉

12月5日(火)サントリーホール

シルヴァン・カンブルラン(指揮)/ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)

ヤナーチェク:「ヴァイオリン弾きの子供」、序曲「嫉妬」/リゲティ:ピアノ協奏曲/ルトスワフスキ:管弦楽のための協奏曲

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~自国の作品、稀有な選曲も聴きどころ~

ポーランドの巨匠ツィメルマンが、今回は自国の大作曲家の作品を中心に弾いてくれる。彼の演奏ならどんな作曲家の作品でも聴いてみたいほどだが、今回は特別だ。次点にはカンブルランと読響がめったにナマでは聴けない曲をやってくれる演奏会を挙げたが、欲を言えばヴィトと都響のキラール「前奏曲とクリスマス・キャロル」やペンデレツキの「クリスマス・シンフォニー」という珍しい曲をやる定期(19日)も入れたかったところ。

先月のピカイチ

◆◆10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演〉

10月29日(日)サントリーホール

セミヨン・ビシュコフ(指揮)/パブロ・フェランデス(チェロ)

ドヴォルザーク:序曲「オセロ」、チェロ協奏曲、交響曲第8番

4年ぶりの来日でドヴォルザーク・ツィクルスを行ったビシュコフ&チェコ・フィル (C)JUNICHIRO MATSUO
4年ぶりの来日でドヴォルザーク・ツィクルスを行ったビシュコフ&チェコ・フィル (C)JUNICHIRO MATSUO

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〈日本フィルハーモニー交響楽団 第754回東京定期演奏会〉

10月14日(土)サントリーホール

カーチュン・ウォン(指揮)/山下牧子(メゾ・ソプラノ)/harmonia ensemble(女声合唱)/東京少年少女合唱隊(児童合唱)

マーラー:交響曲第3番

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~内外名門オーケストラの秀演が続く~

どちらを「一番」にするか迷ったが、ビシュコフの造型確かで引き締まった指揮と、オーケストラの柔らかくしなやかな響きが良き融合を果たしたチェコ・フィルを上位に。良い意味でローカル感のある中欧サウンドの魅力を再認識させられたし、フェランデスの芳醇なソロも光った。ウォンの微細な指揮に、日本フィルが最高度のパフォーマンスで応えたマーラーの3番も感銘深い出色の名演。今年の日本のオケ公演中のベストとさえ感じた。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京交響楽団 第717回定期/川崎定期第94回〉

12月16日(土)サントリーホール、17日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール

ユベール・スダーン(指揮)

シューマン:交響曲第1番「春」(マーラー版)/ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番

かつて音楽監督として東響を率いた現・桂冠指揮者スダーンが2年ぶりに東響の指揮台に立つ
かつて音楽監督として東響を率いた現・桂冠指揮者スダーンが2年ぶりに東響の指揮台に立つ

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〈フォーレ四重奏団〉

12月7日(木)トッパンホール

エリカ・ゲルトゼッツァー(ヴァイオリン)/サーシャ・フレンブリング(ヴィオラ)/コンスタンティン・ハイドリッヒ(チェロ)/ディルク・モメルツ(ピアノ)

マーラー:ピアノ四重奏曲断章/ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲/メンデルスゾーン:ピアノ四重奏曲第3番

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~年末に精緻な名人芸を見直す~

ルイージ&N響の「千人の交響曲」、上岡敏之&東京二期会プロジェクト、カンブルラン&読響など、他に推したい公演もあったが、ここはまず、スダーン2年ぶりの東響定期登場に光を当てた。絶好調ノットとはまた違った魅力を持つ精緻かつ緊密な音と音楽を味わえるのは貴重な喜びだ。フォーレ四重奏団は、おそらく世界のトップに位置する室内楽グループ。その完璧なアンサンブルと豊穣な音楽を一人でも多くの人に体験して欲しい。

先月のピカイチ

◆◆10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈日本フィルハーモニー交響楽団 第754回東京定期〉

10月13日(金)サントリーホール

カーチュン・ウォン(指揮)/山下牧子(メゾ・ソプラノ)/harmonia ensemble(女声合唱)/東京少年少女合唱隊(児童合唱)

マーラー:交響曲第3番

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〈読売日本交響楽団 第632回定期演奏会〉

10月17日(火)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/ルーカス・ゲニューシャス(ピアノ)/アンナ・ガブラー(ソプラノ)/クリスタ・マイヤー(メゾ・ソプラノ)/ディートリヒ・ヘンシェル(バリトン)/ファルク・シュトルックマン(バス)/新国立劇場合唱団

ヒンデミット:主題と変奏 「4つの気質」/アイスラー:ドイツ交響曲 作品50(日本初演)

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~深い感銘 2つのオーケストラ公演から~

ウクライナ問題、中東ガザ地区の戦乱と世界が暗い雲で覆われた中で2つ、対照的な角度から私たちに深い感銘を与える演奏会を日本のオーケストラが実現した。シンガポール出身ウォンの首席指揮者就任披露を兼ねた日本フィル定期、マーラー「交響曲第3番」の力強く人生肯定的な名演は今後の共同作業に大きな期待を抱かせた。東ドイツ出身のヴァイグレが主にブレヒトを歌詞とする「反ファシズム・カンタータ」、アイスラーの「ドイツ交響曲」を今、日本初演した意味も大きい。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈川口成彦 ショパン全曲演奏会in相模湖vol.1&2〉

12月23日(土)、24日(日)神奈川県立相模湖交流センター ラックスマン ホール

川口成彦(フォルテピアノ)/アルドナ・バルツニク(ソプラノ、23日のみ)

(23日)ショパン:「春」、ポロネーズ第15番遺作、華麗なる大円舞曲、歌曲、ほか

(24日)ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ、バラード第1番、スケルツォ第1番、ほか

ショパンのピアノ独奏曲のみならず全曲を弾き進める川口のシリーズが新たに始まる (C)Shin Matsumoto
ショパンのピアノ独奏曲のみならず全曲を弾き進める川口のシリーズが新たに始まる (C)Shin Matsumoto

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〈B→C バッハからコンテンポラリーへ[257]新野将之〉

12月12日(火)東京オペラシティ リサイタルホール

新野将之(パーカッション)/悪原 至(パーカッション)

J・S・バッハ:「平均律クラヴィーア曲集第1巻」から前奏曲第1番/ノアゴー:「ザ・ウェル・テンパード・パーカッション」/権代敦彦:“Vigilate !” ─世の終わりのためのコラール─/権代敦彦:Gone, gone, gone beyond/新野将之:「蠢」ほか

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~日本人演奏家のユニークな企画、続々~

「第九」「メサイア」「くるみ割り人形」の歳末3点セットの一方で、日本人演奏家のユニークなリサイタルが続く。ピリオド鍵盤楽器奏者の川口は向こう5〜6年をかけ、ショパンの全作品に相模湖で挑む。23日の初回はポーランドのソプラノ、アルドナ・バルツニクを迎えた歌曲で意表をつく。映像や音声を交え、打楽器の魅力を伝えてきた新野は「B→C」登場に当たり、権代敦彦への委嘱新作2曲の世界初演で気を吐く。

先月のピカイチ

◆◆10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈日本フィルハーモニー交響楽団 第754回東京定期演奏会〉

10月14日(土)サントリーホール

カーチュン・ウォン(指揮)/山下牧子(メゾ・ソプラノ)/harmonia ensemble(女声合唱)/東京少年少女合唱隊(児童合唱)

マーラー:交響曲第3番

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〈東京都交響楽団 第985回定期演奏会Aシリーズ〉

10月30日(月)東京文化会館

オスモ・ヴァンスカ(指揮)

シベリウス:交響曲第5番、第6番、第7番

コメント

~両オーケストラ 共に作品の真髄に迫る名演~

今月は来日オーケストラ・ラッシュの皮切りとなるチューリッヒ・トーンハレ(18日)、オスロ・フィル(24日)など個性を発揮した演奏会もあったが、日フィルのマーラー、都響のシベリウスはともに作品の深掘りと記憶に残る名演という点で挙げた。カーチュン・ウォンのマーラー3番はラスト7つのシンバルが鳴り響き、視覚的にもシンメトリーの美に象徴される完成度。都響については速リポ/CLASSICNAVIをご参照ください。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈上岡敏之×東京二期会プロジェクトⅠ〉 

12月9日(土)、10日(日)東京芸術劇場コンサートホール

上岡敏之(指揮)/盛田麻央(ソプラノ)/富岡明子(メゾ・ソプラノ)/松原友(テノール)/ジョン・ハオ(バス)/二期会合唱団/読売日本交響楽団

ストラヴィンスキー:詩篇交響曲/モーツァルト:レクイエム

二期会の創立70周年記念公演シリーズの締めくくりは、上岡敏之との初共演にして新しいシリーズで (C)青柳聡
二期会の創立70周年記念公演シリーズの締めくくりは、上岡敏之との初共演にして新しいシリーズで (C)青柳聡

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〈ズラトミール・ファン&アレクサンドル・カントロフ〉

12月12日(火)トッパンホール

ズラトミール・ファン(チェロ)/アレクサンドル・カントロフ(ピアノ)

シベリウス:メランコリー/グリーグ:チェロ・ソナタ/ワーグナー(ポッパー編):ロマンス(アルバムの綴り)/ブラームス:チェロ・ソナタ第2番

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~上岡敏之×東京二期会、若き才能カントロフ×ファン、初共演に注目~

ドイツの歌劇場でたたき上げ、指揮者としてのキャリアを積んできた上岡敏之が東京二期会に初登場、ストラヴィンスキーとモーツァルトの「祈りの合唱曲」を披露する。共演回数の多い読響相手に、これまでにないアプローチをしてくれそうな予感。

19年のチャイコフスキー国際コンクールで共に優勝したズラトミール・ファン(チェロ)とアレクサンドル・カントロフ(ピアノ)がデュオとして初共演、その個性的な曲目からも目が離せない。

先月のピカイチ

◆◆10月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈オスロ・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉

10月23日(月)サントリーホール

クラウス・マケラ(指揮)/辻井伸行(ピアノ)

ショスタコーヴィチ:祝典序曲、ピアノ協奏曲第2番/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

来日前から話題を呼んだ鬼才マケラ&オスロ・フィルの来日=2023年10月23日 サントリーホール 撮影:堀田力丸/提供:エイベックス・クラシックス・インターナショナル
来日前から話題を呼んだ鬼才マケラ&オスロ・フィルの来日=2023年10月23日 サントリーホール 撮影:堀田力丸/提供:エイベックス・クラシックス・インターナショナル

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〈東京都交響楽団 第983回定期演奏会Cシリーズ〉

10月14日(土)東京芸術劇場コンサートホール

大野和士(指揮)/イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)

リンドベルイ:アブセンス(日本初演)/シューマン:ヴァイオリン協奏曲/ベートーヴェン:交響曲第7番

コメント

~才能あらわに、確立されたマケラの音~

イチオシに挙げたブロムシュテットの来日中止は残念だったが、マケラは期待通りの出来。演奏内容は速リポの拙稿クラウス・マケラ指揮 オスロ・フィル 日本公演 | CLASSICNAVIをご覧いただきたい。昨年来、彼の指揮で都響、パリ管、オスロ・フィルと聴いたが響きの作り方に共通項があり、言い換えれば27歳にして自分の音を確立し、楽員がそれに共感し楽しみながら弾いていたのは彼の才能を示すものであろう。次点は大野の気迫あふれる熱演に対して。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈NHK交響楽団 第2000回定期公演Aプログラム〉

12月16日(土)、17日(日)NHKホール

ファビオ・ルイージ(指揮)/ジャクリン・ワーグナー、ヴァレンティーナ・ファルカシュ、 三宅理恵(以上、ソプラノ)/オレシア・ペトロヴァ、カトリオーナ・モリソン(以上、アルト)/ミヒャエル・シャーデ(テノール)/ルーク・ストリフ(バリトン)/ダーヴィッド・シュテフェンス(バス)/新国立劇場合唱団/NHK東京児童合唱団

マーラー:交響曲第8番「一千人の交響曲」

N響の2000回定期は首席指揮者ルイージが率いてマーラーの大作に挑む 写真提供:NHK交響楽団
N響の2000回定期は首席指揮者ルイージが率いてマーラーの大作に挑む 写真提供:NHK交響楽団

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〈フォーレ四重奏団〉

12月7日(木)トッパンホール

エリカ・ゲルトゼッツァー(ヴァイオリン)/サーシャ・フレンブリング(ヴィオラ)/コンスタンティン・ハイドリッヒ(チェロ)/ディルク・モメルツ(ピアノ)

マーラー:ピアノ四重奏曲断章/ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲/メンデルスゾーン:ピアノ四重奏曲第3番

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~記念すべきN響の2000回定期、歴史的凄演に期待~

N響定期2000回のプログラムは聴衆の投票による選曲でマーラー「一千人の交響曲」。1000回(86年10月)の時はサヴァリッシュ指揮、メンデルスゾーンの「エリア」で伝説的な名演が披露されたが、2000回も歴史的凄演(せいえん)を期待したい。次点は21年の初来日でセンセーショナルを巻き起こしたフォーレ四重奏団。前回は聴けなかったので今度こそ、その刺激的演奏を直に体験してみたい。

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