オスモ・ヴァンスカ指揮、東京都交響楽団定期演奏会

ヴァンスカが求める音楽を極限まで具現化した都響とのシベリウス

フィンランドの巨匠、オスモ・ヴァンスカが東京都交響楽団と初共演を果たした。取材したのは10月30日(月)、東京文化会館で行われた第985回 定期演奏会Aシリーズで、シベリウスの交響曲第5番、第6番、第7番という後期3曲が演奏された。

 

筆者がヴァンスカを直近で聴いたのは8年前の読売日響で奇しくも同じプログラムだった。都響とはコロナ禍で2回の延期を経て3度目の正直というだけに、待ち望んでいたファンも多く、東京文化会館の5階席まで埋め尽くされ補助席も出ていた。

緻密さと情熱を兼ね備えたシベリウスを披露したオスモ・ヴァンスカ ©Rikimaru Ho tta/東京都交響楽団提供
緻密さと情熱を兼ね備えたシベリウスを披露したオスモ・ヴァンスカ ©Rikimaru Ho tta/東京都交響楽団提供

果たしてその演奏は、1曲目の第5番、冒頭2小節ティンパニの、静寂の中に温かさを秘めたクレッシェンドの抑揚だけでシベリウスの音楽そのもの。その醍醐味(だいごみ)である北欧の空気感を感じる響き、自然の情景が浮かぶような音による描写、織りなす旋律の呼応、巧みな転調による光や水面の反射のようなうつろいなど、見事に音で感じさせてくれる。シベリウスがなぜそう書いたのか、一つ一つの音の意味を感じ取り緻密にスコアを読みながらも、情熱的な部分は以前にも増してより深く、スケール感も増しているように感じられた。

弦のうねりや全管弦楽のクレッシェンドでもハーモニーが美しく、大きな山を描きながら、音楽がとぎれることはない。次々と変化していくテーマのつなぎ目や転調も味わい深く、ここでもオーケストラは歌い、その美しさには涙するほどだった。

 

後期の3曲をまとめて聴くと、単一楽章で書かれた7番に向かって構成も変化し、革新性を増しながら音楽が深化していることが味わえる。最後のオーケストラのハ音が消えた後、拍手が起きるまでの静寂が一つの極みに到達したことを物語っていた。

ヴァンスカの求める音楽に、ここまで応えた都響のメンバーのポテンシャルと音楽性は、鳴りやまぬ拍手となり、マエストロだけ空のステージに再び立ち、満足そうな笑顔をみせてくれた。この共演、次回も期待したい。
(毬沙 琳)

シベリウスの作曲技法の深化を解き明かしたような音楽作りを披露したヴァンスカ©Rikimaru Ho tta/東京都交響楽団提供
シベリウスの作曲技法の深化を解き明かしたような音楽作りを披露したヴァンスカ©Rikimaru Ho tta/東京都交響楽団提供

公演データ

【第985回東京都交響楽団定期演奏会Aシリーズ】

10月30日(月)19:00 東京文化会館大ホール

指揮:オスモ・ヴァンスカ
コンサートマスター:矢部 達哉

シベリウス:交響曲第5番変ホ長調Op82
シベリウス:交響曲第6番ニ短調Op104
シベリウス:交響曲第7番ハ長調Op105

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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