プレ・ベートーヴェン・イヤーに名手たちの響き

室内楽の妙味を満喫させる新譜が相次いだ。早世したピアニストが遺した貴重な記録や、清々しい風が吹き抜ける気鋭の新録音と、楽しみは尽きない。

<BEST1>

「ベートーヴェンとの旅路」

川口成彦(フォルテピアノ)

ベートーヴェン:ロンド・ア・カプリッチョ「失くした小銭への怒り」、バレエ音楽「プロメテウスの創造物」より抜粋(作曲者編曲によるピアノ版)、バガテル「エリーゼのために」1822年版、幻想曲、他

ベートーヴェンとの旅路
シグナム(東京エムプラス) JSIGCD-1001

<BEST2>

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第7番「ラズモフスキー第1番」、同8番「ラズモフスキー第2番」

キアロスクーロ四重奏団

BIS(ナクソス・ジャパン) NYCX-10582

<BEST3>

【1970-75】ザルツブルク&ウィーン録音 ベートーヴェン&ブラームス

スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第3、4、27番/ブラームス:6つの小品よりOp.118、他

【1970-75】ザルツブルク&ウィーン録音 ベートーヴェン&ブラームス
ビクター(タワーレコード) NCS-88045~6

来年(2027年)はベートーヴェンの没後200年。記念の大きな節目を前に、そろそろベートーヴェン作品の新譜が活況を呈しつつある。新旧の名盤をご紹介しよう。

活発な演奏活動を続ける気鋭のフォルテピアノ奏者、川口成彦がベートーヴェンの小品にスポットを当て、3台の貴重な楽器を弾き分けた素敵なアルバムを出してくれた。楽聖の作品では32曲のピアノ・ソナタがあまりに有名だが、解説書で川口が語っているとおり、小品には率直なユーモアや祈りのほか、異国趣味(スコットランドやハンガリー、ポーランド)が表れていて、また違った側面が楽しめる。
英国の著名なコレクションが所蔵する3台のフォルテピアノ(製造は1795、1825、1826年ごろ)は、いずれも作曲者自身が生きていた時代の楽器そのもの。現代のピアノと大きく違う柔軟で翳(かげ)りある音色と微細な風合いによって、曲の興趣を生き生きと引き出して行く川口の妙技に、ひたすら聴きほれる。幻想曲ト短調作品77の傑作度や、交響曲第7番第2楽章(カルクブレンナー編曲)のシンプルな深み、聴き慣れた初版と異なる「エリーゼのために」(1822年版)の衝撃など、まるで万華鏡のような面白さだ。

人気のヴァイオリニスト、アリーナ・イブラギモヴァが率いるキアロスクーロ四重奏団は、ガット弦やバロック弓を使うピリオド楽器団体として、果敢な演奏活動を続けている。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲録音は、これで4作目に達し、中期の傑作群に挑んだ。ピリオド楽器とその奏法の特長をフルに生かして、先鋭で克明な表情や、これまで聴いたことのないディテールを鮮やかに浮かび上がらせ、傑作に新たな光を投じている。

20世紀ピアノ界の巨人、スヴャトスラフ・リヒテル(1915~97)が得意としたレパートリーのひとつがベートーヴェンだった。タワーレコードの自主企画で、巨匠が1970年代にザルツブルクとウィーンで遺した正式録音群が再発売された。剛直な演奏は極めつきで、こうした歴史的名演が常時カタログに残っている大切さを、改めて痛感する。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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