初夏を彩る室内楽

室内楽の妙味を満喫させる新譜が相次いだ。早世したピアニストが遺した貴重な記録や、清々しい風が吹き抜ける気鋭の新録音と、楽しみは尽きない。

<BEST1>

ルノー・カピュソン「ショーソン」

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)/ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ)/エベーヌ弦楽四重奏団/ステファヌ・ドゥネーヴ指揮ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団

ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセール、「詩曲」(ヴァイオリンとオーケストラのための

ルノー・カピュソン「ショーソン」
ワーナー WPCS-13890

<BEST2>

ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ第3番、5番「春」、9番「クロイツェル」

アリョーナ・バーエワ(ヴァイオリン)/ヴァディム・ホロデンコ(ピアノ)

ナクソス・ジャパン(アルファ) NYCX-10572

<BEST3>

シューベルト ピアノ三重奏曲第2番 他
椿三重奏団

シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番変ホ長調、アヴェ・マリア、菩提樹、野ばら 他

アールアンフィニ MECO-1090

米国出身のピアニスト、ニコラ・アンゲリッシュ(1970~2022)はフランスを拠点に活動し、フランス音楽に深い造詣をもっていた。早すぎた晩年に当たる2020年、コロナ禍の合間を縫って、インターネットでの配信用に無観客で収録した演奏会のライヴから、ショーソンの傑作「ヴァイオリンとピアノ、弦楽四重奏のためのコンセール」がディスク化された。
共演者が凄い。ヴァイオリンが盟友のルノー・カピュソン、そして今を時めくエベーヌ弦楽四重奏団と、奇跡のような顔ぶれがそろった。カピュソンは長年、アンゲリッシュとこの曲を録音したかったが実現せず、最後の共演で、ついに念願がかなったという。スケールの大きい歌いまわしには余裕と落ち着きがあり、こまやかな情感の移ろいや陰影に富んだエスプリが胸に響く。さまざまな意味で尋常ではない状況のもと、フランスゆかりの奏者で固めた布陣ならではの名演が遺されたありがたみを思う。

キルギス出身のヴァイオリニスト、アリョーナ・バーエワと、ウクライナ生まれのピアニスト、ヴァディム・ホロデンコは共に仙台国際音楽コンクールの優勝者で、世界的な活動を続ける。デュオでベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集録音を始め、その第1弾が出た。テンポやフレージングが自由自在に変化する生き生きとした掛け合いがみごとで、古典派らしい確かな様式感を踏まえたフレッシュな快演に、目から鱗が落ちる。

椿三重奏団はピアノの高橋多佳子、ヴァイオリンの磯絵里子、チェロの新倉瞳でつくるトリオ。3枚目の録音にシューベルト晩年の名作、ピアノ三重奏曲第2番変ホ長調を選んだ。同じ桐朋学園大出身というベースを生かして、お互いをよく聴き合う親密なアンサンブルを築き、作品の持ち味を入念な表現によって柔軟に引き出していく。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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