若者たちのエネルギーと熱気が爆発! 青春の息吹を感じさせる力強いマーラー
ボストン・フィルハーモニー・ユース管弦楽団の初来日公演。プログラムによれば、同管は「音楽を通じて次世代のリーダーを育てることを使命とし、12歳から21歳までの約120名の才能豊かな若手音楽家で構成」。指揮のザンダーは、親団体ボストン・フィルおよび同団の創立者で今年87歳。
開演前からステージで楽員が盛んに音出し。定刻になってコンサートマスターの青年に支えられ、右足にギプスをして杖をついたザンダーが登場。指揮台に登壇すると同時に「キャンディード序曲」が始まったのでびっくり。しかも若者たちのエネルギーの爆発力と熱気の凄まじさたるや! ミュージカル(原作はヴォルテールの小説)の粗削りだが無邪気で楽天的な主人公そのままの演奏が終わるとザンダーがマイクで「東京で演奏できて嬉しい……」と挨拶した。
続いてブルッフの協奏曲。観客の拍手と団員の足踏みに迎えられてブラウンシュタインが登場。第1楽章の序奏から長年ベルリン・フィルのコンサートマスターを務めた経験と実力が発揮される。力強い音色と抑えられたフレージングに弾き手の内的な深みが感じられ、第2楽章は円熟の極み。終楽章も同様。指揮者は強力な統率力で手綱を握りつつ、若者たちからロマンティシズムの薫りと高揚感に満ちた歌を引き出す。演奏を終えて今度はソリストがマイクを手にメッセージを伝え、オーケストラと「ヘイ・ジュード」を演奏。サビの部分でソリストが客席に向かって両手を広げ、皆さんで歌いましょうと誘う。
そしてマーラーの「巨人」。今度は丁寧に音合わせ。各人の能力はかなり高そうだが、第1楽章は細部を整えることよりもデュナーミクや情感など音楽表現が優先。ザンダーの指揮は明確でとても分かりやすく、第2楽章の弦の熱のこもった弾き込みや、金管の明るく鋭い音色とリズム、第3楽章の独特な節回しとアゴーギクが印象的。終楽章の導入は嵐のごとき鮮烈さでダイナミックに躍動。特筆すべきは第2主題だ。青春の夢と憧れが瑞々しい音色と率直な節回しで奏でられ、胸を打たずにおかない。展開部のためらいのないマーチや弦の歌い込みの大きさ、勇壮無比なコーダ。演奏を終えてザンダーはゆっくりと両腕を下ろし、再びマイクを握って感謝を述べた。
観客のスタンディング・オベーションと歓声に応えてアンコールに「ニムロッド」。弦の心の籠った弱音からフレーズが彼らの夢のように大きく膨らんでいく。カーテンコールでブラウンシュタインが第2ヴァイオリンを弾いていたことに気づいたが、若者たちのすばらしい演奏の陰に名匠たちの熱意のサポートがあることを実感。オーケストラや会場の中から明日の世界を、クラシック音楽を担う人が出ることを願って会場を後にした。
(那須田 務)
公演データ
ベンジャミン・ザンダー指揮 ボストン・フィルハーモニー・ユース管弦楽団
6月25日(木)19:00東京芸術劇場コンサートホール
指揮:ベンジャミン・ザンダー
ヴァイオリン:ガイ・ブラウンシュタイン
管弦楽:ボストン・フィルハーモニー・ユース管弦楽団
プログラム
バーンスタイン:キャンディード序曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト長調 Op.26
マーラー:交響曲第1番「巨人」
オーケストラ&ソリスト・アンコール
ジョン・レノン/ポール・マッカートニー作曲(ガイ・ブラウンシュタイン編曲):ヘイ・ジュード
オーケストラ・アンコール
エルガー:「エニグマ変奏曲」より〝ニムロッド〟
なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。










