濃厚なスラヴ色――チェコの新星アレナ・フロンが、オール・ドヴォルザーク・プロで上々の日本デビュー
京都市交響楽団の第712回定期演奏会は、チェコの新星で、本公演が日本デビューとなるアレナ・フロンを迎えての、オール・ドヴォルザークのプログラム。フロンは1992年生まれで今年34歳。2023年にプラハ響を指揮してプラハの春国際音楽祭にデビューし、2024年には、南チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任。チェコ史上初の女性首席指揮者として、国内外から熱い注目を集めている。
序曲「謝肉祭」から始まった演奏会は、そんなフロンの勢いを感じさせる内容となった。演奏会用3部作「自然、人生、愛」の第2曲に当たるこの作品を、フロンはスレンダーな長身の身体全部を使って、まさに踊るようにオーケストラを牽(けん)引。快速テンポの生き生きと躍動感あふれる音楽づくりで、会場のボルテージを一気に上げた。
続く「ピアノ協奏曲」では、フロンと同世代の1993年生まれのピアニスト、阪田知樹が登場。阪田は2016年にフランツ・リスト国際ピアノ・コンクールで優勝。近年は編曲や作曲も手がけるなど、活動の幅を広げている。そんな作曲家としての視点が、このヴィルトゥオーゾとは対極にあるような「ピアノ協奏曲」への深い理解を可能にし、演奏面でも大いに生かされている印象を受けた。自身の持ち味である透明感あるリリカルな音色は、弱音でもホールの隅々まで行き渡るほど。その持ち味を生かしつつ、全体としてはピアノだけが突出することなく、ときにオケと対話し、オケの一部にもなるという調和した音楽づくりがなされ、フロンやオケともごく自然に息が合う、そんな演奏になっていた。
最後の「交響曲第7番」は、少し陰りのある情熱的な音色をはじめ、随所にスラヴ色を感じさせた。フレーズの歌わせ方にも熱量があり、1つひとつのフレーズがまるで生き物のようにうねりながら進んでいく。第4楽章のクライマックスでは、そのフレーズの積み重なりが渦のような力を持ち、高く上り詰めていくような不思議な感覚もおぼえた。ちなみに本公演は、「京都・プラハ姉妹都市提携30周年」の記念公演でもあるそうだが、フロンの要望に応え、スラヴ色の濃い演奏を実現させた京響にも拍手を送りたい。
全体として溌剌(はつらつ)と情熱的。その分直情的に傾く危うさはあるものの、フロンが突き抜けた表現者に欠かせない輝きを持っていることはたしかなよう。本公演はそのことを実感させ、今後の活躍を見守りたいと思わせる、上々の日本デビューだったと言えるだろう。
(堀内みさ)
公演データ
京都市交響楽団 第712回定期演奏会
6月20日(土)14:30京都コンサートホール 大ホール
指揮:アレナ・フロン
ピアノ:阪田 知樹
管弦楽:京都市交響楽団
コンサートマスター:会田 莉凡
プログラム
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」Op.92
ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲 ト短調 Op.33
ドヴォルザーク:交響曲 第7番 ニ短調 Op.70
ソリスト・アンコール
リスト:忘れられたワルツ 第1番
他日公演
6月21日(日)16:00ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ(広島)
ほりうち・みさ
音楽ライター。文筆家。20代から30代にかけて、毎年1カ月ほどバックパッカーでヨーロッパを旅し、主に立ち見でコンサートを聴きまくっているうちに、気がつけば物書きに。モットーはフィールドワークで、作曲家ゆかりの地を巡る連載なども担当。著書に「ショパン紀行」(東京書籍)「ブラームス『音楽の森へ』」(世界文化社)など。日本の音楽や伝統文化についての執筆を行う一面も。










