若き鬼才ペルトコスキの才気が光る、圧巻のショスタコーヴィチ
タルモ・ペルトコスキ&トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の首都圏での2公演目は、ミューザ川崎シンフォニーホールでの、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とショスタコーヴィチの交響曲第10番。ペルトコスキは、2000年フィンランド生まれで、現在26歳。サロネン、サラステ、マケラらと同じく、ヨルマ・パヌラ門下。昨年、弱冠25歳でトゥールーズ・キャピトル国立管の音楽監督に正式に就任した、世界が注目する俊英である。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番では辻󠄀井伸行が独奏を務めた。辻󠄀井は冒頭から集中度が高く、きれいごとでは済まさない力強さが感じられた。オーケストラとも積極的にコミュニケートしていく。第2楽章では洗練された美しさを披露。オーケストラは優美さが印象的。ペルトコスキはときにオーケストラに極限的な弱音を求める。ソロ・アンコールは、近年の辻󠄀井が好んで弾く、ワーグナー(リスト編曲)の「エルザの大聖堂への行列」。音楽の流れが良く、辻󠄀井の澄んだ音の魅力を堪能することができた。
ショスタコーヴィチの交響曲第10番でも最弱音表現が際立つ(たとえば、第1楽章第1主題の提示でのクラリネットと弦楽器群など)。絶叫することはなく、クール。オーケストラの音色も相俟(あいま)って、厳しさよりは優美さが勝っているように感じられた。第2楽章では、ペルトコスキの容赦のない高速にオーケストラが鮮やかに応える。
後半2楽章のペルトコスキの解釈が非常に興味深かった。第3楽章でのショスタコーヴィチが想いを寄せていた女性の名前を織り込んだホルンの主題は気高く穏やかに描かれる。ホルン奏者が柔らかな音で見事に再現。一方、ショスタコーヴィチを表す音型(DSCH)は諧謔(かいぎゃく)味を帯びる。ペルトコスキの描く二人のキャラクターのコントラストをおもしろく感じた。第4楽章終盤ではショスタコーヴィチの自己パロディー(DSCH)への諧謔がペルトコスキの才気とともに楽しめた。全曲を通して木管陣が見事。とりわけ人間味を感じさせるバソン(ファゴット)が魅力的。
オーケストラ・アンコールに、ビゼーの「カルメン」第1組曲より〝闘牛士〟。フランスのオペラ・ハウスのオーケストラでもある彼ららしい華やかな演奏。それでも、ペルトコスキの指揮で聴くと「カルメン」とショスタコーヴィチとの関係を考えてしまうのであった。
(山田治生)
公演データ
タルモ・ペルトコスキ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
川崎公演
6月9日(火)19:00ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:タルモ・ペルトコスキ
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
プログラム
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
ショスタコーヴィチ:交響曲第10番
ソリスト・アンコール
ワーグナー(リスト編):エルザの大聖堂への行列
オーケストラ・アンコール
ビゼー:「カルメン」第1組曲より〝闘牛士〟
これからの他日公演
6月11日(木)18:45愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
6月13日(土)14:00 札幌コンサートホール Kitara大ホール(北海道)
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。










