日本フィル創立70周年を飾る「千人の交響曲」 380人の合唱と巨大音響がサントリーホールを包む
日本フィル創立70周年記念特別演奏会は、マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」。本日と創立記念日の6月22日の2回のみの特別公演である。合唱は総勢380人。サントリーホールのP席、LA席、RA席を埋め尽くし、ソリスト8人はP席最前列に配置された。さらにバンダはマーラー指定のトランペット4、トロンボーン3を倍の2群とし、2階席通路左右に配置。カーチュン・ウォンはサントリーホール全体を巨大な音響空間へと変貌させた。
第1部「来たれ、創造主たる聖霊よ」は、冒頭から大人数の合唱が圧倒的な迫力で響き渡る。8人の独唱者もそれぞれに存在感を示した。中盤の合唱二重フーガは強い推進力をもって展開し、再現部「来たれ」へ向かう過程には切迫感すら漂うスピード感があった。コーダではバンダが強烈な効果を上げた。
第2部「ファウスト」最終場では、管弦楽と合唱が緊張感に満ちた峻厳な自然を描き出す。青山貴と加藤宏隆による神父たちの賛歌から次第に高揚を深め、女声合唱と児童合唱は大編成を感じさせない精緻なアンサンブルで天使の合唱を響かせた。テノール宮里直樹がマリアを高らかに讃え、4台のハープに乗せて第1ヴァイオリンが歌い出す旋律の美しさに魅了される。
ソプラノⅡ吉田珠代、ソプラノⅠ船越亜弥、アルトⅠ花房英里子、アルトⅡ中島郁子が次々と好唱を聴かせた。なかでも児童合唱に続き、ファウストの魂を天上へ導くグレートヒェン(吉田)の心のこもった歌唱から、ファウストを迎え入れる栄光の聖母(三宅理恵)の天上的な歌声へ至る場面は印象深かった。
マリアを崇める博士(宮里)の会場に響き渡る美声を、バランスの取れた合唱が支える。ピッコロ、ハープ、クラリネットによる間奏が場を清め、よくコントロールされた弱音による神秘の合唱が始まる。やがて合唱と管弦楽は徐々に高揚し、「永遠に女性的なるものが、私たちを高みへと引き上げるのだ」(三ヶ尻正訳)で頂点を築く。
カーチュン・ウォンは2階席左右のバンダまで含めた巨大な音響を統率し、日本フィル創立70周年を飾る壮大な演奏を締めくくった。これだけの大編成を見事にまとめ上げた手腕と、合唱陣の高い完成度に加え、日本フィルの管弦楽が示した集中力も特筆に値する。
(長谷川京介)
公演データ
日本フィルハーモニー交響楽団 創立70周年記念特別演奏会
6月21日(日)17:00サントリーホール 大ホール
指揮:カーチュン・ウォン
ソプラノⅠ(罪深き女):船越亜弥
ソプラノⅡ(悔悟する女):吉田珠代
ソプラノⅢ(栄光の聖母):三宅理恵
アルトⅠ(サマリアの女):花房英里子
アルトⅡ(エジプトのマリア):中島郁子
テノール(マリアを崇める博士):宮里直樹
バリトン(恍惚の神父):青山貴
バス(深淵の神父):加藤宏隆
合唱:日本フィルハーモニー協会合唱団、武蔵野合唱団、東京音楽大学合唱団、杉並児童合唱団
合唱指揮:浅井隆仁
音楽アシスタント:小林雄太、湯川紘惠
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋
プログラム
マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」変ホ長調
他日公演
6月22日(月)19:00サントリーホール 大ホール
はせがわ・きょうすけ
ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。









