ベテラン・マエストロ尾高忠明と天才少女HIMARIの共演で注目されたN響C定期
チケットは完売、当日券の発売はなし、すごい人気である。NHKホールを埋め尽くした聴衆のお目当ては14歳の天才ヴァイオリニスト、HIMARIである。昨年3月にベルリン・フィルにソリストとして招へいされ、セバスティアン・ヴァイグレの指揮でヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第1番を弾き、世界的注目を集めたことは記憶に新しい。さまざまな経験を積んで目覚ましい成長を続けているHIMARIが日本を代表するオケのひとつであるN響相手にどのような演奏を繰り広げるのか、それこそが多くの聴衆の興味の焦点であったに違いない。
この日指揮台に立ったのはN響正指揮者の尾高忠明。両者には55年にわたる長い共演歴があるだけに尾高は自然体でオケをコントロールしてHIMARIのソロを優しく支えるような雰囲気で演奏を進めていく。ダブルストップや音程の跳躍などの技術的な〝難所〟でもHIMARIは正確な音程で美しい演奏を聴かせる。ひとつひとつの音を丁寧に掘り下げて弾いていることが伝わってくるのだが、少し真面目すぎる印象。第2楽章に入ると表現にゆとりが出始め、オケとの対話に生命感が宿ってくる。技術的にも難しい第3楽章はメカニックの面では非の打ちどころはないが、欲を言えばフォルティシモの箇所ではもう少し音量が欲しかった。彼女に合わせてN響もいつもより抑え気味。以前、彼女の演奏を聴いた時に比べるとかなり豊かに鳴るようになったものの、もう一段の成長を期待したい。とはいえ、さすが人気者だけに終演後の拍手は盛大で超絶技巧を要するリスト(ナタン・ミルシュテイン編)のメフィスト・ワルツをアンコール。年齢を超越したヴィルトゥオーゾぶりを発揮してみせた。
一方、78歳の尾高は終始、肩の力が抜けた指揮ぶりだったが、N響の鳴らし方の〝ツボ〟を的確に把握しているように映った。それは1曲目のシベリウスのアンダンテ・フェスティーヴォから明らかであった。元々は弦楽四重奏用として作曲されただけにオケ拡大版も弦5部とティンパニという変則的な編成。冒頭から豊かで柔らかい響きが生成され、広いNHKホールを満たした。
メインのラフマニノフの交響曲第3番でも全パートがトゥッティで強音となっても響きが混濁することなく、端正な音作りがなされるところが今の尾高の持ち味といえよう。第3楽章の躍動感も過不足なく表現され、公演全般にわたってベテラン・マエストロの余裕と懐の深さを実感させてくれる仕上がりとなった。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2068回 定期公演 Cプログラム
6月19日(金)19:00 NHKホール
指揮:尾高 忠明
ヴァイオリン:HIMARI
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太
プログラム
シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
ラフマニノフ:交響曲第3番イ短調Op.44
ソリスト・アンコール
リスト(ナタン・ミルシュテイン編):メフィスト・ワルツ第1番から
他日公演
6月20日(土)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










