箕面市立メイプルホール「身近なホールのクラシック」 上岡敏之指揮 大阪交響楽団 シューマン交響曲全曲演奏会Vol.1

作曲家の心の襞の奥深くに分け入る秀演

大阪府の北摂豊能地域に位置する人口14万人弱の都市、箕面の市立メイプルホール(公益財団法人箕面市メイプル文化財団)は企画の独自性において、全国のディープなクラシック音楽ファンの注目を密かに集めてきた。大阪交響楽団とは2022年9月〜24年6月まで4回のブラームス交響曲全曲演奏会をサラリーマン兼業から指揮者専業に転じて間もない坂入健司郎に委ね、目覚ましい成果をあげた。今回のシューマン交響曲全曲演奏会では一転、「孤高のマエストロ」の上岡敏之と大阪響の初共演を実現させた。外部からの依頼公演では2日間が通例のリハーサルも上岡の意図を徹底させるために3日間を確保、背水の陣で臨む。

上岡敏之が大阪交響楽団と初共演。3日間におよぶリハーサルを経て、背水の陣で臨んだ
上岡敏之が大阪交響楽団と初共演。3日間におよぶリハーサルを経て、背水の陣で臨んだ(C)樋川智昭

2027年12月までの3回シリーズは作曲年代順、初回は「第1番〝春〟」と、改訂版での演奏ながら初稿版では実質2番目の作曲に当たる「第4番」を組み合わせた。編成は12型(第1ヴァイオリン12人)だが、コントラバスは 1人多い5人でホルンは4本。

シューマンの交響曲第1番「春」
シューマンの交響曲第1番「春」(C)樋川智昭

「第1番」では冒頭のホルン、トランペットのファンファーレからして上岡流の「こだわり」のフレージングが現れて驚いたが、基本は大阪響のいく分ダークで重心の低い音のアイデンティティーを生かし、シューマンの内面から滲(にじ)み出る混沌を混沌のまま、丁寧に再現する姿勢。厚みのある弦の絨毯(じゅうたん)の上に巧みな管のトッピングを置くバランス感覚においても、ドイツ音楽の王道を行く。第2楽章は生々しい心臓の鼓動のように脈打ち、終結部では途切れ途切れの息遣いでハッとさせる。第3楽章は重厚な弦と軽妙な管の対比が美しく、次第に熱を帯びる中にも一瞬の逡巡の表情が現れ、シューマンの「複雑系」の心理を巧みに描く。第4楽章も力で押すのを戒める。展開部の後にたっぷりと間を置いてホルン、フルートのカデンツァ風の箇所の効果を高めた後、一気にフィナーレへとなだれ込み、巨大なエネルギーのほとばしりで締めくくった。

冒頭から上岡流「こだわり」のフレージングが現れる。最後は巨大なエネルギーをもって締めくくられた(C)樋川智昭

「第4番」はさらに陰影が濃く、第1楽章の序奏を思い切り濃い表情で引っ張った後、「Lebhaft(活き活きと)」の主題を文字通り舞い上がらせた。上岡の棒さばきにはシューマンの心の奥底の襞(ひだ)を1つ1つ優しく解き明かすかの趣があり、極めて豊かなニュアンスに彩られている。第2楽章ロマンツェではコンサートマスター林七奈の美しいソロも交え、白昼夢のような真空地帯を描き出した。第3楽章にはスケルツォにふさわしいエネルギーが横溢(おういつ)したが、ピアノの名手でもある上岡のタッチを思わせる細やかな表情の揺らぎが音楽の奥行きを深くする。第4楽章では指揮者とオーケストラの方法論が完全な一致に至った。決然と進みながらも随所に〝ため〟が生まれ、大団円に向けての「ダメ押し」も見事に決まった。

「第4番」第4楽章では指揮者とオーケストラの方法論が完全に一致した
「第4番」第4楽章では指揮者とオーケストラの方法論が完全に一致した(C)樋川智昭

幸先良いスタートを切ったシリーズは今後、2027年6月4日のVol.2が第2番とメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」、同年12月3日のVol.3が第3番「ライン」とマーラー「交響曲第10番」の〝アダージョ〟と、さらにマニアックな色彩を強めて進行する。

(池田卓夫)

公演データ

箕面市立メイプルホール「身近なホールのクラシック」
シューマン交響曲 全曲演奏会Vol.1

6月18日(木)19:00箕面市立メイプルホール 大ホール(大阪)

指揮:上岡敏之
管弦楽:大阪交響楽団
コンサートマスター:林 七奈

プログラム
シューマン
:交響曲第1番「春」
:交響曲第4番
 

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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