未来への警鐘――作品が今にもたらすものを感慨深く聴いた公演
2020年に大阪フィルでショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」、同じ年に東京都交響楽団の定期演奏会で大野和士の代役で交響曲第8番という大曲を取り上げて成功したロバート・トレヴィーノが、第11番「1905年」で客演した。
トレヴィーノは、1984年生まれのメキシコ系アメリカ人で、スウェーデンのマルメの首席指揮者などを歴任、現在はイタリアのRAI響の首席客演指揮者、2026/27年シーズンからはルーマニアのジョルジュ・エネスク・フィルの首席指揮者に就任する。マルメ響とのベートーヴェン全集のCDは、HIPの成果をモダン楽器と融合した興味深い演奏だった。
演奏会前半のプロコフィエフの協奏曲のソリストを務めたアンナ・ゲニューシェネは1991年モスクワ生まれで、ルーカス・ゲニューシャスの夫人。強靭(きょうじん)なタッチでオケと対峙(たいじ)する演奏で観客を魅了した。
後半は1957年の10月革命40周年に書かれたショスタコーヴィチの大作。表題通り、1905年にペテルブルクでの皇帝ニコライ2世の冬の宮殿への大行進を行い、改革を求めた民衆10数万人に対し、軍隊が鎮圧のちの革命に発展する大惨事「血の日曜日事件」を題材にした大作が演奏された。
独裁的な政権運営を行ったスターリンが1953年に没し、フルシチョフ政権となり「雪解け」の時期に書かれたものの、ソ連体制はその後も基本的に変わらず当局の監視もゆるやかながら続いていた。
作品は、宮廷広場の緊張感をはらんだ惨事を予見する冒頭のテーマと宮廷の軍隊さらに民衆の蜂起などを、一度聴くと覚える革命歌をモチーフにした音楽が繰り返し変形されながら聴き手を曲に引きずり込んでいく。作曲時に勃発したハンガリー動乱の影響もあるといわれていて、革命への賛美の裏側で体制を批判する作曲者得意の「二枚舌」がここでも発揮されているという。
ただ作品が進むにしたがって、場所を変えてその後も続く天安門事件、ミャンマー、イランなど政権と民衆の衝突と鎮圧など、聴衆は今に生きる自分たちへの問いかけとしても聴いた。
作曲者の若き盟友でチェリストのロストロポーヴィチは、かつてこの作品の録音を行った際、鐘の音が止まることなく続く終結部の解釈について「これこそが未来への警鐘です」と話した。この公演でも実践され、減衰して消えていく鐘の音を聴衆はさまざまな思いを巡らせながら待ち、その後大きな拍手に包まれた。
ソ連当局から、形式主義と言われ1948年のジダーノフ批判にさらされた2人の作品が今にもたらすものを感慨深く聴いた公演だった。
(平末広)
公演データ
大阪フィルハーモニー交響楽団 第599回定期演奏会
6月19日(金)19:00フェスティバルホール(大阪)
指揮:ロバート・トレヴィーノ
ピアノ:アンナ・ゲニューシェネ
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔 文洙
プログラム
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 Op.26
ショスタコーヴィチ:交響曲 第11番 ト短調 Op.103「1905年」
ソリスト・アンコール
ショスタコーヴィチ:「人形の踊り」より〝おどけたワルツ〟
他日公演
6月20日(土)15:00フェスティバルホール(大阪)
ひらすえ・ひろし
音楽ジャーナリスト。神戸市生まれ。東芝EMIのクラシック担当、産経新聞社文化部記者、「モーストリー・クラシック」副編集長を経て、現在、滋賀県立びわ湖ホール・広報部。EMI、フジサンケイグループを通じて、サイモン=ラトルに関わる。キリル・ぺトレンコの日本の媒体での最初のインタビューをしたことが、ささやかな自慢。










