未知の音楽に触れた感覚をもたらしたルルー指揮日本フィルのプロコフィエフ
7月の日本フィル東京定期。フランソワ・ルルーの指揮で、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(独奏:諏訪内晶子)と、プロコフィエフの交響曲第5番が演奏された。
ベートーヴェンは諏訪内が見事な独奏を披露した。この曲は、伸びのある音で真っ直ぐな音楽を奏でる彼女に合っており、以前も快演を耳にしたことがあったが、スムーズに美音を放つ当時の楽器ストラディヴァリウス“ドルフィン”から、鳴らすのに苦労する代わりに馴染むとより太くコクのある音色を出すことができるグァルネリ・デル・ジェズ“チャールズ・リード”に変えて、今はすっかり手の内に入れたのであろう。ただでさえよく伸びる彼女の音がいっそう豊かになり、表情にも力感が加わった。それゆえ、“美しいけれども平板になりがちな”曲が、今回は“美しい上に雄弁な”音楽として再現された。第1楽章のカデンツァはヨアヒムの作。意外に珍しいその音の動きも力強く鮮烈だ(なお第2、3楽章はクライスラー作の割愛版との由)。
世界トップ級のオーボエ奏者であるルルーも、指揮者としてすでにかなりのキャリアを積んではいるが、やはりオーボエを歌わせるが如きなめらかなフレーズで真価を発揮するのも確か。その点ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はピッタリで、しなやかに細やかに歌う─しかもシンフォニックなメリハリも効いた─表情豊かなバックが名演を後押しした。
プロコフィエフでこの特質が生きたのが第1楽章の出だしの部分。そのまろやかな質感は滅多に聴くことができないものだった。ただし全体的には、大らかにオーケストラを鳴らす方向性。あらゆるパートが明快に表出されるので、普段耳にすることのないサウンドが耳を奪う場面もあるが、第1楽章は終始変わらずダイナミックだし、第2、第4楽章の快速部分は様々な音が明滅しながらもひたすら直進する。したがって、モダンでスタイリッシュな造作でも、社会主義リアリズム全開の民族的な音楽でもない、新たなブレンドによる未知のオーケストラ音楽に触れた感がある。日本フィルは総じて健闘。中でも金管楽器の柔らかく的確な表現が光っていた。
(柴田 克彦)
公演データ
日本フィルハーモニー交響楽団 第782回 東京定期演奏会
7月10日(金)19:00 サントリーホール大ホール
指揮:フランソワ・ルルー
ヴァイオリン:諏訪内 晶子
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋
プログラム
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調op.61
プロコフィエフ:交響曲第5番 変ロ長調op.100
アンコール
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番BWV 1005 より第3楽章 Largo(ヴァイオリン・アンコール)
他日公演
7月11日(土)14:00 サントリーホール大ホール
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










