正攻法の解釈で曲の核心に迫る! 作品に込められた感情を見事に表現
ベルリン・フィルの第1コンサートマスターとしても活躍するヴァイオリニストの樫本大進とフレンチ・ピアニズムの継承者といわれるエリック・ル・サージュによるシューマンとブラームスのヴァイオリン・ソナタ・ツィクルスの第2弾を取材した。演目は公演データを参照していただきたいが、シューマン夫妻とブラームスの心の繋(つな)がりがテーマともいえる洒落(しゃれ)た組み立てとなっている。
![ベルリン・フィルで第1コンマスを務める樫本とフレンチ・ピアニズムの継承者エリック・ル・サージュ©️Tomoko Hidaki](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/02/66e091bc2d19932de79e174ad215915d-1024x768.webp)
1曲目、ブラームスのソナタ第1番は、肩の力が抜けた力みのない演奏ながら作品のフォルムがキッチリと浮き彫りにされ、落ち着いた曲想の中に込められたあふれんばかりの情熱が余すところなく表現されていた。
2曲目のF. A. E. ソナタは第1楽章をシューマンの弟子だったアルベルト・ディートリッヒ、第2・4楽章をシューマンが、そして第3楽章をブラームスが共作した面白い作品。初演したヨーゼフ・ヨアヒムは初見で誰がどの楽章を作ったかを言い当てたそうだが、この日の樫本とル・サージュの演奏もそれぞれの特徴をうまく描き分けていた。
![難曲との向き合い方に音楽家としての成熟を感じさせた樫本©️Tomoko Hidaki](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2024/02/8169add18e93b0f7c94cd8e7fbe321c5-1024x768.webp)
後半はクララとロベルトの作品を1曲ずつ取り上げた。いずれも大向こう受けする超絶技巧や派手なパッセージはなく、特にロベルト晩年に作られたソナタ第2番は内省的な奥行きの先に感情の激しいうつろいが存在する難曲である。こうした作品に対して奇をてらうことなく正攻法の解釈で、聴衆を惹(ひ)きつけて曲の核心へと誘う樫本のヴァイオリンは彼の音楽家としての成熟を実感させてくれるものであった。
(宮嶋極)
公演データ
樫本大進&エリック・ル・サージュ2024
シューマン&ブラームス ヴァイオリン・ソナタ・ツィクルスvol.2
2024年2月4日(日)14:00 サントリーホール
ヴァイオリン:樫本大進
ピアノ:エリック・ル・サージュ
プログラム
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調Op.78「雨の歌」
ブラームス、ディートリッヒ、シューマン:F. A. E. ソナタイ短調
クララ・ シューマン:3つのロマンスOp.22
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調Op.121
アンコール
シューマン:3つのロマンス第2曲Op.94-2
![Picture of 宮嶋 極](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/10/miyajima-300x266.webp)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。