ハーゲン プロジェクト フィナーレ ハーゲン・クァルテット 第5夜

有終の美を飾った〝稀なる名演〟に、会場全体がスタンディング・オベーションで応える

世界最高の弦楽四重奏団の1つ、ハーゲン・クァルテットが、本公演をもって約45年の活動に終止符を打つ。演目は、シューマンのピアノ五重奏曲、同じく弦楽四重奏曲第3番、シューベルトの弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」である。

ハーゲン・クァルテットが、TOPPANホールで最終公演を行った
ハーゲン・クァルテットが、TOPPANホールで最終公演を行った(C)大窪道治 写真提供:TOPPANホール

五重奏曲には俊英ピアニスト・谷昂登が加わる。7月5日にはチェロの北村陽、6日には同じくユリア・ハーゲンが共演して、やはり五重奏曲が演奏されたし、谷の出演もハーゲンQからの提案だというから、単なる最後ではなく、若手への継承が企図されているのは明らかだ。

演奏自体は完全にハーゲンQの主導で運ばれていく。ピアノ協奏曲的な要素も濃い作品だが、ここは〝重層的で雄弁な弦楽4人とピアノが対等に動く室内楽曲〟として再現され、谷も均一度の高い音色で出すぎずに合わせていく。第1楽章からあらゆる表情やダイナミクスが実に細かく、バランスも絶妙だ。なおこれは本日全体の特徴でもあった。第2楽章は中間部の優しい歌が胸に沁み、第3、4楽章は上記の特徴を維持しながらも躍動的。同曲は、緊張感が横溢したここ2日の公演から想像した以上にダイナミックで生き生きとした表現だった。

シューマンのピアノ五重奏曲 変ホ長調。ピアニストの谷昂登が加わり、ダイナミックで生き生きとした演奏を聴かせた(C)大窪道治 写真提供:TOPPANホール

これは弦楽四重奏曲第3番でも継続される。内面的で把握の難しい曲だが、ハーゲンQは全ての動きを曖昧にせず、曲の持つ内面性を外面にも打ち出していく。第2楽章は各変奏の性格の違いが明確に表出され、第3楽章は音の綾が精妙だし、第4楽章のロンド主題は毎回微妙に表情を変える。これは同曲では稀なる名演だ。

今ツアーの柱ともいえる「ロザムンデ」は、〝日本のホーム〟トッパンホールの最終演目=最後の演奏で仕上げ切ったといった感。第1楽章は主題が軽やかに奏されながら、やはりニュアンスに富んだ音楽が展開される。主題の再現における息を呑むような弱音も印象的だ。第2楽章の「ロザムンデ」主題はごく自然で柔らかく、反復ごとの陰影の変幻も見事。第3楽章は4人が1つの楽器のように呼応し、第4楽章はしなやかに弾む。最後の最後にかくも完璧な演奏を聴けたのは嬉しい驚きだ。

今ツアーの柱ともいえるシューベルトの弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」で、ハーゲン・クァルテットは完璧な演奏を聴かせてくれた(C)大窪道治 写真提供:TOPPANホール

本日の彼らは、最近になく動的な上に、最高に細やかな音楽を展開した。これは音響を知り尽くした小ホールでこそ可能なパフォーマンスだったであろう。彼らがなぜ最後の公演にトッパンホールを選び、なぜこのプログラムで臨んだか? それを納得させられるコンサートでもあった。

アンコールはなし。会場全体のスタンディング・オベーションの中、ハーゲンQは晴れやかに別れを告げた。

(柴田克彦)

公演データ

ハーゲン プロジェクト フィナーレ
ハーゲン・クァルテット 第5夜

7月7日(火)19:00TOPPANホール

ハーゲン・クァルテット
1st ヴァイオリン:ルーカス・ハーゲン
2nd ヴァイオリン:ライナー・シュミット
ヴィオラ:ヴェロニカ・ハーゲン
チェロ:クレメンス・ハーゲン
ピアノ:谷 昂登

プログラム
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44
シューマン:弦楽四重奏曲第3番 イ長調 Op.41-3
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D804「ロザムンデ」

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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