クーシストの即興的なソロと独創的なアンサンブルが会場を魅了
東京都交響楽団のアーティスト・イン・レジデンスに就任、さらに2028年4月からは首席指揮者となる予定のペッカ・クーシストが指揮する演奏会。
前半のクーシストはヴァイオリンもひきながら、指揮台をおかずに小編成の弦楽合奏とともに演奏する。打楽器も加わるシベリウスの組曲「恋人」では、切なくやるせない憧れ、ときめき、別離の哀しみが、美しく歌われた。
続いて、日本初演となるアンデシュ・ヒルボリの「バッハ・マテリア」(2017)。チューニングを想わせる混沌のなかから音楽が始まり、アンサンブルは細かくリズムを刻んで、クーシストの独奏に反応しながら進む。ときには海鳥の群れが鳴き交わすような響きとなり、またバッハのブランデンブルク協奏曲第3番の響きも混ざる。弓を持ち替えてのスピッカート、低弦のピツィカートなどに乗り、クーシストはハミングや口笛も交えた多彩で即興的なソロを聴かせて、客席をわかせた。
後半は指揮台が置かれ、管弦打の各楽器がそろうフル・オーケストラを前に、クーシストは指揮棒を手にする。まずはこれも日本初演のアンドレア・タッローディの「きりん座」(2011)。星座をタイトルに、キリンと遊ぶ夢を題材とする一種の幻想曲。宇宙的な広がり、自然の雄大さが、澄んだ響きによって描かれていく。演奏後は、臨席した作曲家にも盛大な喝采が送られた。
おしまいはシベリウスの交響曲第5番。冒頭からふわりと、音がただようようにして始まる。やわらかく波動し、ふくらみをもった音楽だ。楽想が一瞬に切り替わるような部分でも、人工的な精度の高さを求めるかわりに、より自然に感興がわきあがるように鳴り響かせる。「きりん座」に続いて、生命に満ちた自然の豊かさをこの曲からも感じさせる。
これまで都響と関係の深かった指揮者たちには、シンフォニックで精妙な音響体を構築するタイプが多かったが、クーシストはアンサンブルのつくりかたが、かれらとはひと味もふた味も異なっている。共演を重ねていくうちに、どのような化学反応が楽員たちから生まれてくるのか、今後がとても楽しみだ。
なお、この日は舞台上手側の最前列に9台目のコントラバスが、白と紫の花をのせ、ひく者のないままに置かれていた。6月14日に亡くなったコントラバス奏者の柴田乙雄を追悼するもので、予定の曲目に先立ち、バッハの「エア(アリア)」がしめやかに演奏された。
(山崎浩太郎)
公演データ
東京都交響楽団 第1046回定期演奏会Bシリーズ
6月19日(金)19:00サントリーホール 大ホール
指揮&ヴァイオリン:ペッカ・クーシスト
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部 達哉
プログラム
シベリウス:組曲「恋人」Op.14
アンデシュ・ヒルボリ:バッハ・マテリア(2017)[日本初演]
アンドレア・タッローディ:きりん座(2011)[日本初演]
シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 Op.82
他日公演
6月20日(土)14:00サントリーホール 大ホール
やまざき・こうたろう
演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。










