カタリーナ・ヴィンツォー指揮 読売日本交響楽団 第640回定期演奏会

正統にして新鮮 カタリーナ・ヴィンツォー 日本デビュー

2019年24歳でファビオ・ルイージが音楽監督を務めるダラス交響楽団の副指揮者に就任し注目を集め、近年は欧米の主要オーケストラで成功を重ねているオーストリア出身のカタリーナ・ヴィンツォーが読響に初登場、鮮烈な演奏で日本デビューを飾った。

日本デビューを飾ったオーストリア出身の指揮者、カタリーナ・ヴィンツォー©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
日本デビューを飾ったオーストリア出身の指揮者、カタリーナ・ヴィンツォー©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

ヴィンツォーの指揮の特長を3つあげると、1つに、アルノルト・シェーンベルク合唱団のアシスタント・コーラス・マスターを務めるなど、合唱で培った表情豊かな両腕の動きと、歌心のあるフレージング。2つに卓越したオーケストラ・コントロールによる明晰な響き。3つにアーノンクール、フィッシャー、ルイージから学んだ情熱と推進力。

 

プログラム最初は世界中のオーケストラから依頼が引きも切らないフランスの作曲家、ギョーム・コネソンの「ラヴクラフトの都市」から〝セレファイス〟(日本初演)。米国の作家H.P.ラヴクラフトが幻の都市を描いた同名の短編小説に基づく交響詩の第1楽章。ヴィンツォーは読響から目がくらむような色彩感と磨き抜かれた音を引き出した。

 

矢代秋雄「チェロ協奏曲」は、ドイツの俊英、ユリアン・シュテッケルが柔らかく温かなチェロを披露、ヴィンツォー指揮読響の細やかな演奏と一体となる。日本のチェリストによる情念的な演奏と異なる洗練された表情は新鮮で、この作品の新たな一面を知る思いがした。第3部分では首席倉田優のアルト・フルートとシュテッケルのチェロのトレモロが幽玄の世界へといざなった。

矢代秋雄「チェロ協奏曲」。ユリアン・シュテッケルが柔らかく温かなチェロを披露した©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
矢代秋雄「チェロ協奏曲」。ユリアン・シュテッケルが柔らかく温かなチェロを披露した©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

ブラームス「交響曲第2番」はヴィンツォーの特長がすべて生きた名演。全編歌にあふれ幸福感に満たされた。
第1楽章は弦や木管が優美に歌い、ホルンやトロンボーンの重奏も柔和な表情がある。
第2楽章が絶品。冒頭のチェロの深みのある第1主題、首席日橋辰朗の哀愁に満ちたホルンのソロ、木管が愛らしく歌う第2主題、低音弦とヴァイオリンが対位法的にからみ陰りを帯びる部分まで、夢のような世界が展開された。第3楽章冒頭の首席金子亜未のオーボエと他の木管とのハーモニーが美しい。アタッカで入った第4楽章はコーダへ向かって熱く情熱的に盛り上がっていくが、バランスは常に保たれた。
才能ある若手指揮者が数多く輩出する中でも、正統にして新鮮なヴィンツォーの指揮は傑出している。今後も注目していきたい。

(長谷川京介)

公演データ

読売日本交響楽団 第640回定期演奏会

2024年 7月9日(火)19:00サントリーホール

指揮:カタリーナ・ヴィンツォー
チェロ:ユリアン・シュテッケル

プログラム
コネソン:「ラヴクラフトの都市」から”セレファイス”(日本初演)
矢代秋雄:チェロ協奏曲
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73

ソリスト・アンコール
J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番「サラバンド」

Picture of 長谷川京介
長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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