新音楽監督ロレンツォ・ヴィオッティが「1番尽くし」のプログラムでみせた非凡な手腕
東京交響楽団の第4代音楽監督に就いたロレンツォ・ヴィオッティが、就任披露の定期演奏会に臨んだ。任期はことし4月から3年間。1990年、スイス生まれの俊英は、父親が名指揮者マルチェッロ・ヴィオッティ(1954~2005)だった「2世」だが、実力を十分に蓄え、欧米の主要オーケストラとは既に共演済み。28年8月からはチューリヒ歌劇場音楽総監督に就く。東響にも客演を重ねてきた。
そんな新監督が重要な節目に選んだ演目は交響曲の「1番尽くし」。ベートーヴェンの初期作とマーラー「巨人」を並べる、なかなかに周到な作戦だ。過去の取材帳を繰ってみると、19年1月のヴェルディ「レクイエム」では弱音を大切にし、無理にオケをあおらないメリハリの利いたドライブに感心していた。23年9月の「英雄」プロ(ベートーヴェンとリヒャルト・シュトラウス)では、起伏の大きな表現で細やかな情感まで引き出す非凡な手腕をみせていた。こうした美質は今回も随所で現れ、改めて大器ぶりを示した。
ベートーヴェンでは編成を10型(チェロとコントラバスは1人ずつ増員)に刈り込み、スリムな響きと機動力ある合奏を志向。弦と管のバランスに気を配って見通し良いハーモニーを引き出し、時にダイナミクスの変化やレガートを大胆に強調した。アンダンテの第2楽章では古典的な抑制の利いた優美な歌謡性が浮かび、趣味がいい。勢いよく終わった第3楽章の直後に、アタッカで第4楽章冒頭の和音をつなげ、その後の経過部で思い切りブレーキを掛けたのは、心地よいサプライズ。主部では急加速して、爽快に駆け抜けた。
ヴィブラートを許容しながらオーケストラの響き全体に清潔な透明感があり、ユベール・スダーン時代から東響が磨いてきた音楽語法とキャラクターを素直に生かしているのが、好感と安心感を呼ぶ。楽員の反応も良さそうだ。
したがって後半のマーラーでも際立ったのは、弱音の精緻なコントロールと端正な造形だ。第1楽章冒頭(再登場する終楽章の中間部も)はもちろん、葬送行進曲の色合いが濃い第3楽章でも、緊張感の途切れない豊富な弱音のパレットと、腰を据えた歌い込みが、聴衆の耳をそばだたせた。それゆえ若々しく強壮な長調のクライマックスでの力の解放が、いっそう効果的に映える。第3楽章の有名な主題「フレール・ジャック」はコントラバスのパート全員に弾かせた。
前音楽監督のジョナサン・ノットが11年におよぶ長期政権を維持できたのは、当初の予想を上回る多くの「引き出し」を備え、多彩な企画を次々と繰り出して成功を収めたことが大きかった。新監督も就任1年目から意欲的な出し物が続く。滑り出しは上々、さらにお手並みのほどを楽しみに拝見したい。
(深瀬満)
公演データ
東京交響楽団 第740回 定期演奏会
5月16日(土)18:00サントリーホール 大ホール
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:景山 昌太郎
プログラム
ベートーヴェン:交響曲 第1番 ハ長調 Op.21
マーラー:交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
他日公演
5月17日(日)14:00ミューザ川崎 シンフォニーホール
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










