山田和樹指揮 NHK交響楽団 第2063回 定期公演 Bプログラム

邦人作品の洗練された再現――約90年の歳月を超えて、楽曲の真価を今に示す

山田和樹が1年半ぶりにNHK交響楽団に客演した。今回は、N響100年特別企画「邦人作曲家シリーズ」として、マーラーの弟子であったクラウス・プリングスハイムの門下である山田一雄(1912~1991)と須賀田礒太郎(1907~1952)の作品(どちらもN響の前身である新交響楽団が初演)を取り上げたほか、彼らと同時代のドイツの作曲家、ハルトマン(1905~1963)、ヒンデミット(1895~1963)の作品を並べた。4曲とも、1930年代半ばから後半にかけての間に作曲されたものである。

山田和樹が1年半ぶりにNHK交響楽団に客演。邦人作曲家の作品と、同時代のドイツ人作曲家の作品を取り上げた
山田和樹が1年半ぶりにNHK交響楽団に客演。邦人作曲家の作品と、同時代のドイツ人作曲家の作品を取り上げた 写真提供:NHK交響楽団

山田一雄の小交響詩「若者のうたへる歌」は、1938年2月に、第2回新響邦人作品コンクールの入選作品として、他の入選作品とともにローゼンストック指揮新響によって初演された。この作品では、イングリッシュホルンやサクソフォンが活躍し、多数の打楽器が彩りを添える。日本民謡的な情緒とマーラー風の哀愁が交ざっているところが、若き山田一雄の面白さ。

続く、ハルトマンの「葬送協奏曲」(1940年2月初演)では、ドイツ出身で、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第1コンサートマスターであるキム・スーヤンが独奏を務めた。キムは、第1楽章から楽器をシンプルに鳴らして、歌う。アレグロの第3楽章は激しい音楽だが、粗くはならない。オーケストラ(弦楽合奏)も丁寧で温かみのある演奏を繰り広げた。アンコールのバッハでもシンプルな美が印象に残った。

ハルトマンの「葬送協奏曲」では、キム・スーヤンが独奏を務めた 写真提供:NHK交響楽団

演奏会後半は、まず、須賀田礒太郎の「交響的序曲」(1940年2月初演)。結核を患っていた須賀田は、音楽学校には通わず、山田耕筰、近衛秀麿、菅原明朗、信時潔らに学び、プリングスハイムに師事した。「交響的序曲」は、1939年に書き上げられ、1940年に、日本放送協会主催の「皇紀二千六百年奉祝管弦楽懸賞」で入選し、同年2月に放送で初演されている。プリングスハイムのもとでヒンデミットの書法を学んだ須賀田は、本作において、それを実践したのであろう。「画家マチス」とよく似ている部分が散見されるのが興味深い。ある意味、「画家マチス」の書法を真似て、その音楽を明るくした感じ。山田&N響が優れた演奏で作品を再現。

須賀田礒太郎の「交響的序曲」は、山田&N響が優れた演奏で作品を再現
須賀田礒太郎の「交響的序曲」は、山田&N響が優れた演奏で作品を再現 写真提供:NHK交響楽団

最後のヒンデミットの交響曲「画家マチス」(1934年3月初演)では、レガート気味の音作りで緻密な演奏が繰り広げられた。オーケストラが明朗な響き。弦楽器が柔和な音を奏で、管楽器が好演。表現主義的な要素よりも、新古典主義的な美しさや格調の高さの際立つ演奏であった。

オーケストラの明朗な響きが際立っていた
オーケストラの明朗な響きが際立っていた 写真提供:NHK交響楽団

山田和樹&N響による邦人作品の洗練された再現は、約90年の歳月を越えて、楽曲の真価を今に示すものであったといえるだろう。

(山田治生)

公演データ

NHK交響楽団 第2063回 定期公演 Bプログラム

5月14日(木)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:山田和樹
ヴァイオリン:キム・スーヤン
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉

プログラム
山田一雄:小交響詩「若者のうたへる歌」
ハルトマン:葬送協奏曲
須賀田礒太郎:交響的序曲 Op.6
ヒンデミット:交響曲「画家マチス」

ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番 イ短調 BWV1003 第3楽章(アンダンテ)

他日公演
5月15日(金)19:00サントリーホール 大ホール

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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