アラン・ギルバート×都響 シュテファン・ドールとホルン尽くしのプログラム

シュテファン・ドール(左)、アラン・ギルバート (C)TMSO
シュテファン・ドール(左)、アラン・ギルバート (C)TMSO

首席客演指揮者のアラン・ギルバートが登場した東京都交響楽団の定期演奏会(7月19日、東京文化会館)を振り返る。プログラムはベルリン・フィルの首席ホルン奏者シュテファン・ドールの独奏でモーツァルトのホルン協奏曲第4番、リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲ほか。(宮嶋 極)

 

1曲目、ウェーベルンの「夏風の中で~大管弦楽のための牧歌」はこの作曲家が20歳の時に創作された作品。若き日に作られただけにまだ調性が明瞭で後期ロマン派のような作風。都響の温かみを感じさせる厚い弦楽器のサウンドが効果的に響いた。

 

続くモーツァルトのホルン協奏曲は弦楽器が10型と小ぶりの編成ながら、ドールのスケールの大きなソロに、都響もギルバートに導かれて能動的なアンサンブルで応え、生命感あふれる音楽に仕上がっていた。

 

メインのアルプス交響曲といえば、昨今は8K映像を見るかのような細密な音楽作りが多いが、アランは細部にこだわるというよりは大きな構えの豪壮な音楽を構築。アルプスの巨大山脈を間近で仰ぎ見るような強い印象を与えてくれる演奏を聴かせた。都響も重厚な弦楽器セクションの響きをベースに、指揮者の要求に対して骨太のタッチで壮大な音のパノラマを描き出した。コンチェルトで見事なソロを披露したドールはアルプス交響曲ではホルンの1番パートを担当。ここでも彼のスケール大きな演奏にリードされて9人のホルン・パート(舞台上、1アシも含む)が威力を発揮。いつにも増しての抜群の安定感と雄弁さは目を見張るものがあった。前半の「登り道」では舞台裏のバンダ(別動隊)がシュトラウスの指定通り12本のホルンを配置しており、この日はさながら〝ホルン祭り〟のような様相を呈した。ちなみにバンダのトランペットとトロンボーンは指定では2本ずつであるが、こちらは倍管にして4本ずつ、舞台裏からの響きも迫力満点であった。

「アルプス交響曲」で1番パートを担ったドール。後方にはウインドマシンも (C)TMSO
「アルプス交響曲」で1番パートを担ったドール。後方にはウインドマシンも (C)TMSO

また、演奏内容には関係のないことだが、目に付いたことをもうひとつ紹介しておこう。後半の「雷雨と嵐」の場面で使用されるウインドマシン(風の音を表す筒状の発音機)だが、都響所有のマシンの口径が他団のものに比べて小さいためか、速いスピードでたくさん回転させなければならず、打楽器奏者(西川圭子)が髪を振り乱して激しく回転させていたのが少し気の毒にも見えた。

 

それにしても都響のポテンシャルはなかなかのものである。この日は海外のオケを聴いているかのようなダイナミズムにあふれた演奏で聴衆を魅了した。終演後はオケが退場しても盛んな拍手は鳴りやむことなく、ギルバートはドールを伴ってステージに再登場して聴衆の歓呼に応えていた。

公演データ

【東京都交響楽団 第979回定期演奏会Aシリーズ】

7月19日(水)19:00 東京文化会館

指揮:アラン・ギルバート
ホルン:シュテファン・ドール
コンサートマスター:矢部 達哉

ウェーベルン:夏風の中で~大管弦楽のための牧歌
モーツァルト:ホルン協奏曲第4番変ホ長調K.495
リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲Op.64

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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