ラハフ・シャニ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー2026

次期シェフ、ラハフ・シャニとミュンヘン・フィルによる充実のマーラー

今秋、首席指揮者に就任するラハフ・シャニとともに来日したミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演初日を聴いた。

今秋、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任するラハフ・シャニが指揮台に立った Photo by Taichi Nishimaki
今秋、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任するラハフ・シャニが指揮台に立った Photo by Taichi Nishimaki

前半は弦楽器を12型に絞ってモーツァルトの「後宮からの誘拐」序曲とベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番。ピアノはチョ・ソンジン。弦楽器のヴィブラートは抑え気味ながらもピリオド奏法に寄せた演奏ではなく、大仰な表現を排し、ひとつひとつのフレーズを丁寧に処理しながらアンサンブルをキッチリとまとめていくスタイル。派手さはないものの少し渋みがかった温かみのあるサウンドはいかにも南ドイツのオケらしい。

協奏曲ではチョの方向性をサポートするかのように丸みを感じさせるハーモニーでソロに寄り添った。チョのピアノは彼の美点でもある粒立ちの美しさがこの日も冴えわたり、特に第2楽章におけるトリルの細やかな粒立ちは目を見張るものがあった。欲を言えばこの第2楽章の表現が少しロマンティックすぎ、もう少しシンプルに弾き進めた方がより良かったように感じた。

ミュンヘン・フィルは、少し渋みがかった温かみのあるサウンドを聴かせた Photo by Taichi Nishimaki
ミュンヘン・フィルは、少し渋みがかった温かみのあるサウンドを聴かせた Photo by Taichi Nishimaki

メインはマーラーの交響曲第1番。シャニとミュンヘン・フィルの魅力が全開になったような充実の演奏が繰り広げられた。弦楽器の編成は16型、管楽器には全パートでアシスタント奏者(アシ)をつけずに譜面の指定通りの数での演奏。聴き進めるにつれてこれがシャニの意図するところの根幹であることが分かってきた。シャニは大編成のオケにおいていずれかのパートを突出させるなどして〝尖った〟表現をするのではなく、オケを譜面の指定通りのバランスで鳴らすことに重きを置いているように映った。金管・打楽器をいたずらに強奏させたり、テンポを揺らしてあおるようなことはせずにあくまで譜面に書かれた強弱、テンポを順守することで作品が本来持っている力を引き出そうと意図していたのではないだろうか。例えば、第4楽章フィナーレの7人のホルンが立奏するよう指示されている箇所でトロンボーンやトランペットのアシを加えて音量を増強し派手さを演出することは内外のオケでもよくやることだが、シャニはそうしたことをせずにオケ全体をバランスよく鳴らすことで奥行きのある壮大な響きを構築。逆に弱音での表現を磨き上げることで、ダイナミック・レンジの幅を大きくする効果を生み出していた。第3楽章のコントラバスのソロ、木管やホルン、トランペットの各パートのソロの水準も高く、丁寧なアンサンブルとも相まってなかなか巡り会うことのできない中身の濃いマーラー1番を聴くことができた。

なかなか巡り会うことのできない中身の濃いマーラー1番だった Photo by Taichi Nishimaki
なかなか巡り会うことのできない中身の濃いマーラー1番だった Photo by Taichi Nishimaki

万雷の喝采に応えてシャニ自身がオーケストラ版に編曲したシューベルトの「軍隊行進曲」をアンコール。オケが退場しても拍手は鳴り止まずシャニはコンサートマスターの青木尚佳を伴って舞台に再登場し、彼女と見事なソロを披露したコントラバス首席奏者を讃えるような仕草を見せていた。

(宮嶋 極)

終演後、シャニはコンサートマスターの青木尚佳とともに見事なソロを披露したコントラバス首席奏者を讃えるような仕草を見せていた Photo by Taichi Nishimaki
終演後、シャニはコンサートマスターの青木尚佳とともに見事なソロを披露したコントラバス首席奏者を讃えるような仕草を見せていた Photo by Taichi Nishimaki

公演データ

ラハフ・シャニ 指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー2026

5月11日(月)19:00 サントリーホール 大ホール

指揮:ラハフ・シャニ
ピアノ:チョ・ソンジン
管弦楽:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:青木 尚佳

プログラム
モーツァルト:歌劇「後宮からの誘拐」序曲K.384
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調Op.15
マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」

ソリスト・アンコール
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番ハ短調Op.13「悲愴」から第2楽章

アンコール
シューベルト(シャニ編):軍隊行進曲D733-1

他日公演
5月12日(火)19:00サントリーホール 大ホール

プログラム等の詳細は、公式サイトをご参照ください。
https://www.kajimotomusic.com/concerts/mp-2026/

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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