岡山フィル初のサントリーホール公演に拍手喝采!濃密で、深い情感をこめた、見事なアンサンブルを聴かせる
岡山フィルハーモニック管弦楽団は、1992年の創立。2013年から2022年 3月まではハンスイェルク・シェレンベルガーを首席指揮者に戴いていた。続いて4月には秋山和慶をミュージックアドバイザーに迎えたが、氏は昨年1月に急逝、シェフの座は当面空席になっている。とはいえ同フィルは、近年、年4回の定期公演および1月のニューイヤーコンサートを基本として活発な活動を展開中だ。
楽員数は現在54名。メンバー表には、藤原浜雄(ヴァイオリン)、小田桐寛之(トロンボーン)、近藤高顯(ティンパニ)をはじめとする大ベテラン奏者たちも客演首席あるいは特別首席奏者等として名を連ねている。今回(5月9日)の東京公演では、そのうちの40数名がステージに乗り、その他40名強の数の客員奏者が参加しての演奏だった。だが、優れた指揮者のもとでそのアンサンブルを聴けば、オーケストラ本体の実力はおのずから察しがつくというものであろう。
今回の指揮をつとめたのは、故・秋山和慶の愛弟子にあたる尾高忠明だった。同フィルが「秋山とともに思い描いていた大きな節目の公演」としての初めてのサントリーホール公演に際し、これほど適任の指揮者はいなかったであろう。そして尾高は、彼の得意のレパートリーの一環であるラフマニノフの作品2曲をもって、恩師へのはなむけとしたのであった(彼はプレトークと演奏後のトークで、その想いを切々と聴衆へ語っていた)。プログラムは、ピアノ協奏曲第2番と、交響曲第2番である。
各都市のオーケストラの東京公演で、腕に縒(よ)りをかけて熱演、快演を披露した楽団は多い。耳の肥えた東京の聴衆を、巧いオーケストラだと舌を巻かせた楽団も少なくない。だが、この日の岡山フィルのように、これほど濃密で、心のこもった、深い情感をこめた、しかも技術的に優れた見事なアンサンブルを以てラフマニノフの長大な第2交響曲を聴かせたオーケストラは、評者の知る限り、稀(まれ)ではなかったかと思う。第1楽章ではまだ演奏に力みがあったのか、最強奏の箇所ではもう少し音に透明度が欲しいと感じられたのは事実だが、第2楽章に入ると、突然音楽にあたたかい表情があふれはじめ、同時に無理な力みのない、自然な昂揚感が満ちて来たのである。しばしば繰り返されたアッチェルランドが、息を呑(の)むほどの迫力を感じさせた。そしてこの曲の聴かせどころともいうべきアダージョの第3楽章では、尾高と岡山フィルの美点が、最大限に発揮される。ゲストコンサートマスターの藤原浜雄をリーダーとした弦楽器群(14型編成)は、この楽章では抜きん出て豊麗に、しかも哀愁をこめて歌った。また全曲を通じ、クラリネット、オーボエ、フルート、ホルンなどをはじめ管楽器セクションが感情をこめた豊かな歌を聴かせてくれたのも印象に残る。ラフマニノフの音楽独特の陰翳(えい)が見事に再現された快演だったと言えよう。概して言えば、全曲の中でも、特に叙情的な部分の演奏に、このオーケストラの良さが出ていたのではないか。アンコールで演奏されたエルガーの「エニグマ変奏曲」からの〝ニムロッド〟も、その最高の例に含まれる。
第1部で演奏された「ピアノ協奏曲第2番」について詳しく触れるスペースがなくなったが、ソリストをつとめた岡山県出身の中桐望の、たっぷりとテンポを採った、レガートで叙情的な、あたかもショパンかと見まがうようなラフマニノフの美しさを特筆しておきたい。もっとも、その優しい歌は、咆哮(ほうこう)するオーケストラにより打ち消される部分が少なくなかったのも事実だが――。ソロ・アンコールで弾いたラフマニノフの「ヴォカリーズ」の静かな歌は、彼女の真骨頂であろう。音色の美しさは、彼女のお家芸なのだ。
(東条碩夫)
公演データ
岡山フィルハーモニック管弦楽団 東京特別公演 ~桃太郎の国から~
5月9日(土)14:00サントリーホール 大ホール
指揮:尾高忠明
ピアノ:中桐 望
管弦楽:岡山フィルハーモニック管弦楽団
コンサートマスター:藤原浜雄
プログラム
ラフマニノフ
:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
:交響曲第2番ホ短調Op.27
ソリスト・アンコール
ラフマニノフ/コチシュ編:ヴォカリーズ
アンコール
エルガー:管弦楽のための独奏主題による変奏曲 Op.36より第9変奏「ニムロッド」
とうじょう・ひろお
早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作を手掛ける。1975年度文化庁芸術祭ラジオ音楽部門大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」)制作。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿している。著書・共著に「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(中公新書)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他。ブログ「東条碩夫のコンサート日記」 公開中。










