ソロ楽器とオーケストラによる交響的作品とウィットに富んだプロコフィエフ
ウクライナ出身で長年イギリスを中心に活動するキリル・カラビッツが都響と初共演を果たした。まもなく50歳の円熟期を迎えるカラビッツは、いっそうの洗練とある種の軽やかさ、濃(こま)やかさを増している。
それは昨年エリザベート王妃国際音楽コンクール2位を得て注目を集めている久末航をソリストに迎えたブラームスの協奏曲にも感じられた。第1楽章冒頭のオーケストラは決然としたマエストーゾだが北ドイツ的な重さはなく、ピアノの第2主題の軽やかなタッチによるカラフルな音色が快い。その後もソリストの堅牢な技術と明快な表現、並外れた集中力が発揮される。第2楽章の落ち着いた宗教的な静謐(ひつ)な時間の中で交わされるソロとオーケストラの慰めと憧れの情感がすばらしく、とりわけ最後のカデンツァ前のPPとエスプレッシーヴォで奏でられるソロの美しさは特筆される。終楽章はピアノ、オーケストラともに歯切れのよい発音でリズムの愉悦に満ち、青春の馨(かぐわ)しさを発散させながら、力と希望に溢(あふ)れるコーダで曲を締め括(くく)った。
休憩後はサーリアホの「地球の影」から。オルガンが重要な役割を果たすものの、先のブラームス同様、協奏曲というより独奏楽器を伴う交響的作品。同曲の初演者でパリのノートルダム大聖堂のオルガニストのラトリーが、ステージ上のリモート・コンソールで同ホールのオルガンを弾く。第1曲〝影は飛び去る〟は名状し難い不思議な響きに続いて突然、オーケストラが騒(ざわ)めき立ち、何かが飛び去った後にオルガンの重低音の響きが残る。穏やかな第2曲〝ドーム〟はオルガンのソロが宗教的な神秘性を感じさせ、オーケストラの驚くほど多様なサウンドに溶解、時に分離し、ミステリアスな様相を帯びていく。そして終曲〝花、遺跡、彫像〟では大聖堂での即興演奏を彷彿(ほうふつ)とさせるオルガンと強烈な原色のオーケストラが聴き手を超現実的な異空間に連れて行く。
プロコフィエフの第4番は改訂版ではなくコンパクトでよりバレエ的要素の濃い初版。第1楽章序奏、ハ長調の明朗な響きに暗い影がよぎる。思い切りエッジを際立たせた第1主題と明るい牧歌的な第2主題が対比され、フルートから他の木管への受け継ぎが美しい。勇ましいマーチ風からの展開部も表現の密度が高い。第2楽章もフルートが好演、総じて情感や明暗の変化が見事にとらえられる。第3楽章はヴァイオリンの歌い回しがコミカルでトリオは妖艶。終楽章は固めのアーティキュレーションで躍動。旋律的な副主題のまったりとした情趣など重層的なテクスチャーが明快に示され、音による身振りが楽しい。パリ時代の作曲家のウィットに富んだ軽やかな精神が感じられる秀演だった。カーテンコールで3月に定年を迎えた楽員の平田昌平(Vc)に大きな赤い薔薇(ばら)の花束が贈呈される場面もあり、心に残る春のコンサートを終えた。
(那須田務)
公演データ
東京都交響楽団 第1043回定期演奏会
4月24日(金) 19:00サントリーホール 大ホール
指揮:キリル・カラビッツ
ピアノ:久末航
オルガン:オリヴィエ・ラトリー
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉
プログラム
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15
カイヤ・サーリアホ:地球の影(2013)[日本初演]
プロコフィエフ:交響曲第4番 ハ長調 Op.47(1930年初版)
なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。










