井上道義の巧みな設計と、それに応え得る読響と声楽陣の力量の高さが光る好演
東京芸術劇場マエストロシリーズにおける井上道義指揮、読売日本交響楽団の公演。同コンビのマーラー第4弾となる交響曲第2番「復活」が披露された。
![巧みな設計で自然な抑揚を作り出した井上道義 写真提供=東京芸術劇場(C)K.Miura](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/11/5cf1eab8e3bdb28b69bd33addef157ed-1024x681.webp)
第1楽章は出だしのトレモロから気合十分。以降はじっくりと運ばれ、気宇壮大な音楽が形成される。第2楽章は、豊潤な歌が節度を保ちながら展開され、後半のピッツィカート部分の豊かな表情が新鮮さをもたらす。第3楽章は、キッパリした迫力としなやかさが同居し、精妙なリズムで魅せる。第4楽章はアルト独唱の林眞暎の深い歌声が印象的。男性的ともいえる声質が曲の美感に変化を加える。第5楽章は、迫真的な開始後、いとも細やかに進行する。打楽器の驚くほど広大なクレッシェンドに導かれた激烈な部分は、読響の面目躍如。エネルギーに満ちた音の乱舞が繰り広げられる中で、細かな動きも明瞭に表出される。バンダの距離感や静謐(せいひつ)な場面の叙情味も秀逸。そして新国立劇場合唱団が絶妙な弱音で歌い出し、ソプラノの高橋絵理と林がナチュラルな歌唱で加わる。重層感のある合唱はさすがの感。最後の盛り上がりも圧倒的だ。
![井上の要求に応え好演を聴かせた読響と声楽陣 写真提供=東京芸術劇場(C)K.Miura](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/11/572b3059c3e9cf85ea50bacced32e8ad-1-1024x681.webp)
「復活」は冒頭から感情過多の熱演が続くと(個人的に)辟易(へきえき)する曲なのだが、この演奏はそれが全くない。全体の構成バランスが見事で、各楽章の特性が精緻に描き分けられながら、壮麗・荘厳な大団円を迎えた。この井上の巧みな設計と自然な抑揚、それに応え得るオーケストラ(と声楽陣)の力量の高さが光る好演だった。
(柴田 克彦)
![終演後、健闘を讃え合う出演者(左から)合唱指揮の三澤洋史、井上道義、林眞暎、高橋絵理 写真提供=東京芸術劇場(C)K.Miura](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/11/5c51a8cd54ff0080a3bce4b40d7029af-1024x681.webp)
公演データ
東京芸術劇場マエストロシリーズ 井上道義&読売日本交響楽団
11月18日(土)東京芸術劇場コンサートホール
指揮:井上 道義
ソプラノ:高橋 絵理
メゾソプラノ:林 眞暎
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
![Picture of 柴田克彦](https://classicnavi.jp/wp-content/uploads/2023/01/shibata-1-300x266.jpg)
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。