盟友・大友直人のタクトで余すところなく表現された三枝成彰の「ガンダムZ」の世界
作曲家として、またコンサートや音楽イベントのプロデューサーとして活躍を続ける三枝成彰の劇伴(映画やドラマ、アニメなどの劇中音楽)の代表作である「機動戦士Zガンダム」をテーマにしたコンサートを聴いた。
「機動戦士Zガンダム」は、テレビ朝日系列(制作・名古屋テレビ、日本サンライズ)で1985年3月から86年2月まで、全50話が放送されたテレビ・アニメ。物語は79~80年に放送された「機動戦士ガンダム」の続編にあたり、この日演奏されたのはその劇中の音楽。一昨年、仙台フィルハーモニー管弦楽団が定期演奏会で三枝の作曲した音楽を取り上げるにあたり、散逸していたオーケストラ用の楽譜を整理・復元して交響組曲「Zガンダム」として編み直して演奏したことを受けて、この日の公演が実現したもの。公演の後半でこの交響組曲を取り上げ、前半は劇中から新たに9曲をチョイスして演奏された。前半9曲はコンサートで演奏されるのは初めて。
演奏を始めるにあたり三枝自身が作曲の経緯を説明。それ以前に手掛けていたドラマなどの劇伴とアニメのそれとの制作過程の違いには大いに戸惑ったとのエピソードを明かした。当時のアニメはすべて手描きで作画からアニメ化に至るまで膨大な時間と労力を要し、このため作曲にあたっては台本や絵コンテ、完成した物語すら把握できないままに、事前に説明を受けたシーンの長さをもとに楽曲の尺を想定し、「戦闘シーンA・B・C」「悲しみA・B・C」のような形で作曲を進めたのだという。それを録音したものを原作・総監督の富野由悠季がそれぞれの楽曲をシーンごとの映像に当てはめて完成させた。そうした慣れない環境にもかかわらず「とにかく、全力でいい曲を書こう」との三枝の強い思いが当時のアニメの劇伴としては異例ともいえるフル・オーケストラを駆使した本格的な音楽へと結実していった。
前半の9曲はドラムスも入ったポップス的なテイストが随所に感じられる雰囲気。一方、後半はジョン・ウィリアムスの映画音楽を彷彿とさせるドラマティックな曲調や日本的な繊細さを感じさせるなど多彩な変化に富んだ音楽となっていた。オーケストラの各楽器の使い方が効果的。交響組曲の第2曲目〝戦争と平和〟はその典型例。前半はティンパニの連打を基調に荒々しく進行するなど戦争の激しさが大胆に表現され、後半はハープなども入って木管楽器が活躍する穏やかな雰囲気が醸成されるなど、その鮮やかな対比が印象的であった。終曲〝愛の協奏曲〟は田村響の華麗なピアノとオーケストラが美しい掛け合いを繰り広げ幸福感に満ちたエンディングを演出した。
指揮の大友直人は複数の三枝の作品の初演を務めた経験もあり、作曲家の意図を十分に理解していることが窺える的確な指揮ぶりで東京交響楽団から変化に富んだ演奏を引き出し公演の成功に大きな役割を果たしていた。
(宮嶋 極)
公演データ
三枝成彰 機動戦士Zガンダムの世界
5月10日(日)18:00 サントリーホール 大ホール
指揮:大友 直人
ピアノ:田村 響
管弦楽:東京交響楽団
コンサートマスター:小川ニキティン・グレブ
三枝 成彰:「機動戦士Zガンダム」より
1、TITANS
2、カプセルの中
3、モビルスーツ戦
4、グリーン・ノアの少年
5、苦悩
6、灼熱の脱出
7、追撃者/大気圏突入/生命散って
8、反撃
9、美しき地球
三枝 成彰:交響組曲「Zガンダム」
1、Zガンダムのテーマ
2、戦争と平和
3、宇宙巡洋艦のテーマ
4、猜疑の勝利
5、サイコ・オーロラポラリス
6、ニュータイプ
7、愛の協奏曲
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










