東京都交響楽団第990回定期演奏会Bシリーズ

交差する軌跡が生み出した、まれにみる名演奏

作曲家と指揮者、ソリスト、オーケストラそれぞれの軌跡がクリスマス前の東京で交差した。

ポーランドの巨匠ヴィトが東京都交響楽団第990回定期演奏会に登場(C)堀田力丸
ポーランドの巨匠ヴィトが東京都交響楽団第990回定期演奏会に登場(C)堀田力丸

1944年クラクフ生まれのアントニ・ヴィトは作曲をペンデレツキに学び、ポーランドの同時代音楽紹介をライフワークとしてきたマエストロ。1971年のカラヤン指揮者コンクール入賞を機に、ヘルベルト・フォン・カラヤンのアシスタントを務めた振り出しは、5歳年少の都響終身名誉指揮者、小泉和裕に一脈通じる。ペンデレツキはマーラーと同じく作曲と指揮の二刀流で、都響にも3度客演した。「交響曲第2番」には明らかにマーラー時代の交響曲への回帰がみられ、第2代音楽監督の渡邉曉雄が毎年12月にマーラーを紹介した1970年代以来の蓄積を持つ都響の同化しやすい作品だった。さらにソリストの反田恭平が留学したワルシャワ音楽院で、ヴィトは教授を務めていた。

ヴィト渾身(こんしん)の指揮と都響のパワー全開!

映画「戦場のピアニスト」の音楽でも知られるキラールの小品は前衛から普遍に転じた時期、1972年の作曲で精妙な音の響き合いが聖夜に向けての時期に相応(ふさわ)しい雰囲気を醸し出す。ラフマニノフでのヴィトは低弦を強調、ロシアのオーケストラ風のダークな音をつくる。反田も様々な新機軸を打ち出すが完成には至らず、同床異夢の居心地の悪さを覚えた。第3楽章に至って両者が噛(か)み合い、丁々発止の醍醐味(だいごみ)が生まれた。

ワルシャワ音楽院という共通項のあるヴィトと反田恭平が聴かせた丁々発止のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」(C)堀田力丸
ワルシャワ音楽院という共通項のあるヴィトと反田恭平が聴かせた丁々発止のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」(C)堀田力丸

ペンデレツキは1980年の作曲(1981年改訂)。強烈な音響と時に哀切にも響く静寂の対比、《きよしこの夜》の引用が示唆する社会主義国家とキリスト教の関係、ポーランド人のローマ法王ヨハネ・パウロ2世の母国訪問(1979年)のインパクトなどが35分余りの絵巻物の中に織り込まれ、聴き手に多様な歴史の記憶を想起させる。ヴィト渾身の指揮と都響のパワー全開がどこまでも一体化、まれにみる名演奏を体験することになった。
(音楽ジャーナリスト池田卓夫)

公演データ

東京都交響楽団第990回定期演奏会Bシリーズ

2023年12月19日(火)19:00サントリーホール

指揮:アントニ・ヴィト
ピアノ:反田恭平
コンサートマスター:山本友重

<プログラム>
キラール《前奏曲とクリスマス・キャロル》
ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」
ペンデレツキ「交響曲第2番《クリスマス・シンフォニー》」

ソリスト・アンコール
シューマン(リスト編曲)《献呈》

池田 卓夫
池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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