最後のライヴ、巨匠の至芸

日本のオーケストラと関係が深い名指揮者たちの交響曲録音が相次いで登場した。巨匠最後の公演を記録したライヴ盤から、気鋭の進境ぶりを伝える快演まで色とりどりだ。

<BEST1>

ブルックナー 交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」

飯守泰次郎(指揮)/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

ブルックナー 交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
フォンテック FOCD9897

<BEST2>

チャイコフスキー 交響曲第3番 ニ長調「ポーランド」

ジョナサン・ノット(指揮)/東京交響楽団

チャイコフスキー 交響曲第3番 ニ長調「ポーランド」
エクストン OVCL00835

<BEST3>

ドヴォルザーク 交響曲第7&8番

ピエタリ・インキネン(指揮)/ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団

SWRムジーク(ナクソスジャパン) SWR19130CD

ワーグナーを始めとするドイツ音楽の第一人者として称賛を集めた飯守泰次郎は昨年8月、82歳で天寿を全うした。生涯最後のステージが、同年4月24日にサントリーホールで東京シティ・フィルを指揮したブルックナー「ロマンティック」の特別演奏会だった。同ホールの客席で私も見届けた畢生(ひっせい)の名演がCD化された。
公演プログラムに寄せた本人の言葉が、演奏の本質を示しているだろう。「私にとってバイロイトでワーグナーの仕事をした経験が、ブルックナーのサウンドを構築する土台になっていると思います。彼特有の響きを出すには、オーケストラ全体が一体となって、互いに他の楽器に耳を傾けることが重要です」。そして長年の積み重ねでそれを理解し、献身的に演奏する同フィルに感謝をささげている。
あたかも遺言のようになったライヴ盤に聴ける、土台のしっかりした厚みある響きと淀みない流れに、巨匠の至芸をしのぶ。

 

在京オーケストラのコンビでは随一の親密な関係と、聴衆の熱い支持を誇るジョナサン・ノットと東京交響楽団。昨年7月にミューザ川﨑シンフォニーホールで、夏の音楽祭開幕に披露したチャイコフスキーの交響曲第3&4番がそれぞれディスク化された。ノットには珍しいレパートリーだ。「ポーランド」の愛称がある前者では、感傷的な民俗色を排した見通しよい精緻な音響体が立ち表れ、ノット流の美学が徹底されている。

 

昨年まで日本フィル首席指揮者だったピエタリ・インキネンは、ドイツ放送フィルでも同様のポストを務めている。ドヴォルザークの傑作2曲をすっきり爽快にまとめ、決然としたダイナミックな表情がりりしい。リズムが歯切れ良く、身ぶりの大きな深い抑揚に彩られる。この楽団で大きく成長した指揮者の姿をみることができる。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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