キンボー・イシイ指揮 九州交響楽団 第439回定期演奏会~武勇伝の真否

ドン・ファンとドン・キホーテ、二人の理想主義者をパワフルに描く

九州交響楽団5月定期はキンボー・イシイを客演に招き、ドン・ファンとドン・キホーテという二人の理想主義者を音にする。まずは14型対面配置で「ドン・ファン」。若きシュトラウスの才気とパワーが溢れる譜面を過度に整理せず鳴らし、九響のお手並み拝見。客演コンマス鍵冨弦太郎の美音が際立った。

九州交響楽団5月定期に登場したキンボー・イシイ
九州交響楽団5月定期に登場したキンボー・イシイ

チェンバロが運ばれ編成は半分以下に。披露されたテレマン組曲「ドン・キホーテのブルレスカ」はイシイ自身の編曲だ。8曲から成る組曲は、シュトラウスが描くエピソードとほぼ同内容。気楽な編曲と思いきや、今時のHIP(歴史的知識にもとづく演奏)の影もちらつかせつつ通奏低音ならざるチェンバロが走る。打楽器の吉永優香は曲ごとに異なる楽器を操り、いつもの九響とは異質な響きの弦と渡り合う。風車との闘いはまるでウィンドマシン協奏曲、ドゥルシネアに思いを寄せるバロックため息音型に鈴で合いの手を入れ、ウッドブロックで馬やロバをギャロップさせる。21世紀の耳でリブートされたお祭り騒ぎ、始めは吃驚したような客席も、ドン・キホーテがあっさり眠りにつくや大いに盛り上がった。

キンボー・イシイ編、テレマンの組曲「ドン・キホーテのブルレスカ」。編成は交響詩「ドン・ファン」の半分以下に
キンボー・イシイ編、テレマンの組曲「ドン・キホーテのブルレスカ」。編成は交響詩「ドン・ファン」の半分以下に
さまざまな打楽器が登場し、作品の世界観を華やかに演出した
さまざまな打楽器が登場し、作品の世界観を華やかに演出した

大管弦楽に戻るシュトラウス「ドン・キホーテ」では、指揮者の前にチェロ台が。サンチョ・パンサ役のヴィオラ杉田恵理と登場したウィーン・フィル首席タマーシュ・ヴァルガは、首席チェロの位置に座る。上昇するフルートがセルバンデスのページを開くや、ソリストもピチカートを響かせトゥッティで弾き始めた。独奏チェロ譜でトゥッティ部も演奏可能で、ヴァルガからの希望とのこと。クァルテット・ベルリン・トウキョウ創設メンバー杉田の明快な音色が描くサンチョ・パンサは、パワフルな九響金管に一歩も引かず歌い、安定したヴァルガのドン・キホーテと渡り合う。

リヒャルト・シュトラウス「ドン・キホーテ」では、指揮台の前にチェロ台が置かれ、ウィーン・フィル首席タマーシュ・ヴァルガは首席チェロの位置に座った
リヒャルト・シュトラウス「ドン・キホーテ」では、指揮台の前にチェロ台が置かれ、ウィーン・フィル首席タマーシュ・ヴァルガは首席チェロの位置に座った

演奏の白眉は第3変奏。二人の独奏者の対話がコンマスと絡み、独奏チェロだけでは語り尽くせぬドン・キホーテの複雑な魂が露わになる。コンサートマスターとヴィオラの言い合いを眺めるチェロが徐々に激高、トゥッティを率い騎士の道を語り出す過程は、近未来のオペラ名人が描くレシタティーヴォのよう。ヴァルガがオケ中に座った効果がハッキリ判った。

九響の強烈なブラスと果敢に闘ったチェロの最期の巨大な独奏は、ソリストの大演説ではなく、困った愛され爺さんがオケに看取られつつ静かに逝くよう。拍手に応えたヴァルガは、「複雑な音楽と対照的な単純な歌を」とカザルスの「鳥の歌」を無伴奏で奏でる。カザルスにドン・キホーテを重ねた……わけであるまいが。

(渡辺和)

公演データ

九州交響楽団 第439回定期演奏会~武勇伝の真否

5月13日(水)19:00アクロス福岡シンフォニーホール

指揮:キンボー・イシイ
チェロ:タマーシュ・ヴァルガ
ヴィオラ:杉田恵理
管弦楽:九州交響楽団
コンサートマスター:鍵冨 弦太郎

プログラム
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
テレマン(キンボー・イシイ編):組曲「ドン・キホーテのブルレスカ」
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」

ソリスト・アンコール(チェロ)
カザルス:カタルーニャ民謡「鳥の歌」

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渡辺 和

わたなべ・やわら

1957年千葉県生。アマデウスQ解散後のマスタークラス通訳で真の天才を目の前にし衝撃を受け、以降、室内楽を中心にフリー音楽ジャーナリストとして活動。コロナ禍に引退宣言、大分県由布院町に庵を結ぶも隠居の夢はあえなく挫折、九州北部を拠点に日本フィル九州ツアーや九州交響楽団らも眺める日々。著著に『クァルテットの名曲名演』(音楽之友社)、『ゆふいん音楽祭35年の夏』(木星舎)、『クラシックコンサートをつくる。続ける。』(平井滿との共著、水曜社)、等。

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