C×C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅vol.6 酒井健治×クロード・ドビュッシー

作曲家の境界線が曖昧になる周到な選曲と構成、演奏者たちの力演で誘う前衛的な音世界

フランスにゆかりの深い酒井健治とドビュッシーの作品を並列した公演。指揮の森脇涼と東京六人組を主軸とする13名が出演した。

精鋭たちが集結し、類まれなプログラムを披露した (C)平舘平
精鋭たちが集結し、類まれなプログラムを披露した (C)平舘平

酒井が語っていた「どちらの曲を聴いたのか分からなくなるようにしたい」との狙いは叶えられたと言っていい。それは、周到な選曲&構成と演奏者たちの両作曲家に対するフラットなスタンスによるところ大だ。
最初はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」(アンサンブル版。日本初演)。「この曲の和声とモティーフの変容は、ワーグナーの手法にフランス音楽の伝統をミックスさせたもの。ワーグナーとドビュッシーの融合も今回のテーマの1つ」(酒井)との意図を納得させる、繊細かつ夢幻的な美演が展開された。

作曲家の酒井健治。初演を含む自作曲をワーグナー、ドビュッシー作品と融合させるため周到なプログラムを構成した (C)平舘平
作曲家の酒井健治。初演を含む自作曲をワーグナー、ドビュッシー作品と融合させるため周到なプログラムを構成した (C)平舘平

次もドビュッシーの「12の練習曲集」より3曲。三浦友理枝の的確なピアノ独奏もさることながら、後期の曲想が酒井作品への移行をスムーズにさせた。
ここから、酒井の「青のリトルネッロ」(木管三重奏)と、「青と白で」(木管五重奏+ピアノ。日本初演)が続く。いずれもフランスの管楽曲を彷彿させるトーンと誠実な演奏が、精妙な美感と清新な色彩感を創出した。
後半最初、ドビュッシー後期の「白と黒で」は、三浦と田中翔一朗のピアノが、等しく響き合いながら前衛的なまでの音世界を描出。よってここも、田中の凄絶な力演が光った次の酒井の「練習曲集」との境界線が曖昧になる。
最後を飾る酒井の「ジークフリートのための3つのスケッチ」(委嘱新作。初演)は、第1楽章がワーグナー「ジークフリート牧歌」、第2楽章がドビュッシー「海」の第2楽章を異化させ、第3楽章で両者が融合するという興味深い作品。12名のアンサンブルが、二人の音楽を明瞭に浮き彫りにし、目眩く音の綾で魅了しながら、ワーグナー、ドビュッシー、酒井の融合と調和を成就させた。
〝現代音楽〟を意識させない、エキサイティングで意義深いコンサート。
(柴田克彦)

ワーグナー、ドビュッシー、酒井作品の調和を実現させ、現代音楽というカテゴリーを超えた意義深いコンサートとなった (C)平舘平
ワーグナー、ドビュッシー、酒井作品の調和を実現させ、現代音楽というカテゴリーを超えた意義深いコンサートとなった (C)平舘平

公演データ

神奈川県民ホール 開館50周年
C×C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅vol.6
酒井健治×クロード・ドビュッシー

2024年5月11日(土)15:00 神奈川県民ホール 小ホール

指揮:森脇 涼
フルート:上野 由恵
オーボエ:金子 亜未
クラリネット:金子 平
ファゴット:長 哲也
ホルン:福川 伸陽
ハープ:福井 麻衣
ピアノ:三浦 友理枝、田中 翔一朗
ヴァイオリン:尾池 亜美、須山 暢大
ヴィオラ:三国 レイチェル 由依
チェロ:山澤 慧
コントラバス:長坂 美玖
監修・作曲:酒井 健治

プログラム
クロード・ドビュッシー
:牧神の午後への前奏曲(1894/2014/パオロ・フラディアーニ編曲版 日本初演)
:ピアノのための12の練習曲より(1915)
 第10番「対比的な響きのための」
 第6番「8本の指のための」
 第11番「組み合わされたアルペジオのための」

酒井健治
:青のリトルネッロ(2018) 
:青と白で(2022/神奈川県民ホール委嘱作品・初演)
 Ⅰ夜明け前 Ⅱ天国への道 Ⅲ青と白で

ドビュッシー
:白と黒で(1915)

酒井健治
:ピアノのための練習曲より(2011~)
 1.グルーヴ 2.エコーズ 3.Scanning Beethoven  4.ハーモニー 5.無限の階段 6.Sonnet for Lek & Sowat  7.夕べの調べの様に 8.トッカータ 9.死の舞踏
:ジークフリートのための3つのスケッチ(2023/2024) 
 Ⅰ ジークフリートの幻影(2023)
 Ⅱ 海の記憶(2024) 
 Ⅲ 海辺のジークフリート(2024/神奈川県民ホール委嘱作品・初演)

Picture of 柴田克彦
柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

SHARE :