アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 第1030回サントリー定期シリーズ

バッティストーニがシューマンとマーラー一体に描く「子供の情景」

会場配布プログラムの楽曲紹介に舩木篤也さんが記した通り、無垢な存在「子供」が白黒の世界を往来する二面性と、ト長調で始まりト長調で終わる楽曲構造を共有する2曲を並べ、マーラーのシューマンに対する敬愛をも想起させる選曲の意図は明快だった。編成も14型(第1ヴァイオリン14人)で統一したが、コントラバスを1人多い7人としたのは、ドイツ=オーストリア音楽の低音に配慮した結果だったのだろうか?

首席指揮者のバッティストーニが登場。自身の編曲によるシューマン「子供の情景」(管弦楽版)と、マーラーの交響曲第4番を披露した
首席指揮者のバッティストーニが登場。自身の編曲によるシューマン「子供の情景」(管弦楽版)と、マーラーの交響曲第4番を披露した 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

「子供の情景」はシューマンが1838年に書いたピアノ独奏曲。バッティストーニは原曲の持ち味を尊重した柔和な響きを保ち、瞑想よりは素朴な温かさを前面に出す。木管楽器のアンサンブルはチャーミング、金管楽器は煌(きら)びやかなトッピング、きっちりとしたアクセントを与えるティンパニの使用は13曲中3曲にとどめた。編成は古典派交響曲の規模ながら、間もなく就任10周年を迎える首席指揮者が東京フィル楽員と「大きな室内楽」に興じる微笑ましさを感じさせたのは良いとして、どこまでもピアノ原曲に即した編曲にはラヴェルのような跳躍、あるいは才気といったものが欠けていた。

シューマン(バッティストーニ編)「子供の情景」で、バッティストーニは原曲の持ち味を尊重した柔和な響きを保ち、素朴な温かさを前面に出した
シューマン(バッティストーニ編)「子供の情景」で、バッティストーニは原曲の持ち味を尊重した柔和な響きを保ち、素朴な温かさを前面に出した 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

マーラー第4交響曲の柔らかく軽やかな開始は明らかに、前半と同じ流れの上にあった。速めと思えたテンポは楽曲の進行とともにかなり振れ幅を増し、全曲トータルには60分を費やした。ドイツ語圏の音楽の強固な拍節感は(コントラバス増強にもかかわらず)あまり感じさせず、横方向のカンタービレ(旋律美)を重視した音楽づくりが次第に明らかとなる。トゥッティ(総奏)でも軽やかさを保ち、たっぷりと歌わせようとの強い意思を感じた。第1楽章では木管だけでなく、ホルン首席の妙技も光った。第2楽章のコンサートマスター、近藤薫のソロも堅実。バッティストーニはここでも基本レガート(滑らか)の姿勢を崩さず、時に甘美なポルタメントまで駆使する。

マーラーの交響曲第4番は、カンタービレを重視した音楽づくり 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

第3楽章はゆっくりと始め、優しい感触を保つ半面、深いところに潜む何かを探しあぐねている停滞感が漂う。バッティストーニらしい音の聴こえ方、和音の色合いを随所に感じさせつつ、それがまだ〝生煮え〟状態にあり、カオスの現出も美しく整えられ過ぎているように思えた。コーダが最強音へと達した瞬間にソプラノ独唱の高橋維が天使を思わせる純白の衣装で舞台に現れ、第4楽章にアタッカ(切れ目なし)で入った。スリムで良く通る声の持ち主で、バッティストーニが求める音の感触にも合致していたが、ドイツ語の発音は明瞭といえず、歌詞をくっきりと立たせられないのが残念だった。

(池田卓夫)

第3楽章のコーダが最強音へと達した瞬間にソプラノ独唱の高橋維が純白の衣装で舞台に現れ、第4楽章にアタッカで入った
第3楽章のコーダが最強音へと達した瞬間にソプラノ独唱の高橋維が純白の衣装で舞台に現れ、第4楽章にアタッカで入った 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

公演データ

東京フィルハーモニー交響楽団 第1030回サントリー定期シリーズ

5月13日(水)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ソプラノ:高橋 維
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:近藤 薫

プログラム
シューマン(バッティストーニ編):「子供の情景」Op.15(管弦楽版) [世界初演]
マーラー:交響曲第4番 ト長調

他日公演
5月17日(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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