蜜月コンビのラフマニノフ「節」を堪能
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(RPO)はロンドン5大オーケストラの1つ。多角経営のトップランナーを自認、1984年の初来日ツアー(リッカルド・シャイー指揮)以来クラシックはもちろん、ポップスとのクロスオーバーでも日本との関係を深めてきた。ロシア出身、今年50歳のヴァシリー・ペトレンコは2021/22年シーズンから音楽監督を務め、このコンビでは23年以来2度目の来日だが、辻󠄀井伸行との共演歴は長い。
ピアノ協奏曲、交響曲とも「ラフマニノフの2番」で固めたプログラム。辻󠄀井は今年6月、タルモ・ペルトコスキ指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の日本ツアーでも同曲を演奏したし、それ以前にもペトレンコや佐渡裕ら多くの指揮者との共演で弾き込んできた十八番(おはこ)のレパートリーのはずだ。オーケストラは決して巨大ではない辻󠄀井の音量を考慮したのか、12型(第1ヴァイオリン12人)の小ぶりな編成で臨んだにもかかわらず、今夜の辻󠄀井は少し疲れ気味で音が今ひとつ飛ばず、色彩感も控えめだった。ペトレンコは長年のコラボレーションを基盤として丁寧に支え、ラフマニノフにふさわしい音の絨毯を整え、第3楽章では見事に辻󠄀井本来の輝きを引き出した。
指揮者とオーケストラが一段と噛み合い、蜜月状態にある現状は協奏曲の管弦楽でも明らかだった。英国の楽団らしいセピア色のダークな響きに独特の透明感が加わり、ロシア音楽に適した情感とクールで都会的な感触が程よい具合にバランスしている。後半、15型(第1ヴァイオリン15人に第2ヴァイオリン14人、ヴィオラ12人、チェロ9人、コントラバス8人という不思議な編成)に拡大した交響曲では、絶好調のコンビが奏でるラフマニノフ「節」を大いに味わった。
テンポは速め、リズムも引き締まっているのに、歌わせるべき箇所ではとことん歌わせる。爆音や安手のセンチメンタリズムを避け、巧みに抑制を利かせた中から最美の旋律が現れる瞬間のライヴ感は素晴らしい。木管楽器のソロは全員達者で、キャラクターもはっきり。金管の音色にはあと一歩の洗練を求めたいが、パワーは十分だ。英国の楽団のリーダー(他国のコンサートマスターに相当)の多くが「その他全員」がチューニングを終えた後、スター然として登場する慣習には賛否両論あるが、RPOのダンカン・リッデルは第1ヴァイオリン群と同じタイミングで現れた。交響曲の中のソロも決して達者ではないのだが、人柄の反映か、妙に耳に残る味わいがあった。第4楽章終結部にかけての追い込みの中にも即興的な表現が現れ、全員一丸でピタリときめた瞬間こそ、信頼できるシェフとともに時間を費やし究めてきた音楽の底力のように思えた。
(池田卓夫)
公演データ
ヴァシリー・ペトレンコ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
9月7日(月)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ヴァシリー・ペトレンコ
ピアノ:辻󠄀井伸行
管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
コンサートマスター:ダンカン・リッデル
プログラム
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調Op.18
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 Op.27
ソリスト・アンコール
ラフマニノフ:ここは素晴らしい場所
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」より〝行進曲〟
オーケストラ・アンコール
アレンスキー:バレエ音楽「エジプトの夜」より〝パ・ド・ドゥ〟
ホルスト:「日本組曲」より終曲〝狼たちの踊り〟
他日公演
9月9日(水)19:00サントリーホール(東京)
9月10日(木)18:45愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
9月11日(金)19:00立川ステージガーデン(東京)
9月12日(土)14:00りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール(新潟)
9月13日(日)14:00フェスティバルホール(大阪)
※プログラム等の詳細は、各ホールの公式サイトをご参照ください。
いけだ・たくお
2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。










