11月にカベルマイスター(首席指揮者)、クリスティアン・ティーレマンに率いられて来日するシュターツカペレ・ベルリン((ベルリン州立歌劇場管弦楽団、主催者表記=国立歌劇場管弦楽団)の魅力について、その歴史も交えて山崎浩太郎氏に紹介していただく。
ドイツでは歌劇場のオーケストラがメイン・ストリーム的存在
我が国では、「コンサート主体のシンフォニー・オーケストラのほうが、歌劇場専属のオーケストラよりも上手なのでは」となんとなく思われている方が、クラシック好きにもけっこうおられるのではないか。
つまり、「歌劇場のオーケストラは、オペラばかり毎日のように演奏していて歌手のワガママに付き合わされ、交響曲をあまり演奏していない」。そんなふうに感じられている方も、多いのではないか。
しかし実のところ、特にドイツ語圏の主要都市においては、歌劇場のオーケストラというのはほとんどの場合、コンサートにおいても、同じ都市のコンサート専業の交響楽団より格が高く、技量も優れているのである。
なぜなら、公営で身分も収入も安定しているので、優秀な楽員が否応なく集まる。毎日のように歌劇場のピットで一緒に演奏しているから互いをよく知り、サウンドの一体感や合奏の精度は自然に高くなる。歌手と演奏することで音楽的な呼吸も深まる。歌手のことや舞台上のことなど、予想外のさまざまな突発事も多いオペラ公演を滞りなく進行させるための、柔軟で高い対応力と度胸も身につく。
たとえば、シュターツカペレ・ドレスデン(ザクセン州立歌劇場管弦楽団)はその典型だ。またライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団は、同市の歌劇場のオーケストラを兼ねている。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団というのも、ウィーン国立歌劇場の楽員から選抜されたメンバーが、コンサートを行うために結成しているものだ。つまりは、みな歌劇場のオーケストラの楽員でもあるのである。
リヒャルト・シュトラウス、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、エーリヒ・クライバー、ヘルベルト・フォン・カラヤンらへと受け継がれてきた伝統のバトン
同様に、シュターツカペレ・ベルリン(SKB)もまた、コンサートにおいても、ベルリンを代表するオーケストラの一つである。1570年に始まるという、450年を超すSKBの歴史において、リヒャルト・シュトラウス、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、エーリヒ・クライバー、ヘルベルト・フォン・カラヤン、フランツ・コンヴィチュニーなど、数多の名指揮者たちがその演奏会を20世紀前半まで指揮して、豊かな伝統を築いてきた。
20世紀後半、米ソ冷戦下に築かれた「ベルリンの壁」によってベルリンが東西に分断された時代には、SKBは東ベルリンを代表するオーケストラとして、西側のベルリン・フィルに対抗する存在となった。「流線型の美学」といわれたカラヤンの指揮により、モダンで機能的なサウンドに変化していったベルリン・フィルに対し、長く首席指揮者をつとめたオトマール・スウィトナーの下、保守的だが渋く黒光りするような響きとひたむきな集中力で、「ドイツ的」と称される質実剛健な音づくりを続けた。その魅力は、半世紀前の1977年以来の度重なる来日公演や、レコード録音によって日本の聴衆にも広く知られ、根強い支持を得るところとなった。
ベルリンの壁が崩壊しダニエル・バレンボイムによって守られた伝統と革新
「ベルリンの壁」が崩壊し、ドイツとベルリンが再統一された直後の1991年、首席指揮者に就任したダニエル・バレンボイムは、個人技に走ることなく和声や音楽の構造に注意を払う習性を持ち、スタイルの均質性が高いというSKBの長所を、西側諸国では失われつつあるものとして高く評価した。それは、ナチズムから共産主義へと、密告が横行して自由のない約60年の抑圧が生んだものでもあるという、暗い側面も伴っていた。しかしバレンボイムは、だからといってすべてを闇雲に否定するのではなく、美質は美質として評価し、残すべきものは残そうと考えたのだ。
そこでバレンボイムは、2024年まで30年以上にわたり、自由化とともに社会構造が激変する時流のなかでも、この特質が失われることがないように努めたのである。これは、さまざまな地域の人々がそれぞれに個性を持ち、互いの差異を認めあい、相手の存在と個性を尊重することで、人類全体が共存していかねばならないという、この人の信念に基づくものだった。
オーケストラの個性というのは、楽員が代替わりを重ねても、不思議と保持されるものである。バレンボイムが愛するSKBの美質もまた、クリスティアン・ティーレマンとの新たな時代にも、今日から明日へと受け継がれていくのだ。
(山崎浩太郎)
公演データ
クリスティアン・ティーレマン指揮 シュターツカペレ・ベルリン来日公演
指揮:クリスティアン・ティーレマン
ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー ※プログラムB
ソプラノ:カミラ・ニールント(主催者表記 カミラ・ニールンド) ※プログラムA
管弦楽:シュターツカペレ・ベルリン
プログラムA
11月17日(火)19:00 、18日(水)19:00 サントリーホール
リヒャルト・シュトラウス:4つの最後の歌
リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲
プログラムB
11月15日(日)16:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
11月19日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第21番ハ長調K. 467
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 WAB 104「ロマンティック」
主催者ホームページ
ベルリン国立歌劇場管弦楽団≪シュターツカペレ・ベルリン≫ | アーティスト&コンサートマネージメント 株式会社テンポプリモ
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










