11月に来日するクリスティアン・ティーレマン

ドイツ・オーストリア圏でカリスマ指揮者として圧倒的な人気を誇るクリスティアン・ティーレマンが2023年からカベルマイスター(首席指揮者的役割)を務めるシュターツカペレ・ベルリンを率いて来日公演を行う。そこでティーレマンの魅力について改めて紐解いてみたい。

(宮嶋 極)

独墺圏で圧倒的な人気を誇るクリスティアン・ティーレマン
独墺圏で圧倒的な人気を誇るクリスティアン・ティーレマン 主催者ホームページより

ベルリン、ウィーン、バイロイト、ザルツブルク等々、ヨーロッパ、とりわけ独墺圏におけるクラシック音楽の中心都市で最も人気のある指揮者は誰か? と問われたら筆者は迷わずティーレマンの名前を挙げる。彼が指揮する公演のチケットはいつも発売と同時に完売。終演時にはオーケストラが退場しても喝采は鳴り止まず、ティーレマンが何度もステージに呼び戻される光景は日常茶飯事となっている。
具体例を紹介しよう。2008年秋から10年春にかけてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と行ったベートーヴェン交響曲ツィクルス。筆者は何度か現地で取材したが、ツィクルス最終回(10年)の第9交響曲では盛大な拍手とブラボーの歓声が鳴り止まず、オケ退場後、ティーレマンが7度もステージに呼び戻されるほどの熱狂の渦に包まれた。世界のトップ・アーティストらによる名演、熱演を数多聴きなれているはずのウィーンの聴衆をこれほどまでに熱くさせるティーレマンの魅力とは何なのか。

4年ぶりの日本公演となるシュターツカペレ・ベルリン
4年ぶりの日本公演となるシュターツカペレ・ベルリン 主催者ホームページより

1959年にベルリンで生まれたティーレマンは学生だった10歳代後半からベルリン・ドイツ・オペラやハノーファー州立劇場など各地のオペラ劇場でコレペティトーワ(通称=コレぺ、オペラ制作の過程で歌手に稽古をつける練習ピアニスト)として多くのオペラ上演の現場で経験を積み、カラヤンやバレンボイムのアシスタントとして多くを学んだ。20世紀後半以降は少なくなった劇場叩き上げの、いわゆるカベルマイスター型の指揮者である。

ウィーン・フィルとのベートーヴェン・ツィクルスの最終回、盛大な喝采を受けたティーレマン

キャリアを本格スタートさせた後もベルリン・ドイツ・オペラ音楽総監督、シュターツカペレ・ドレスデン首席指揮者としてザクセン州立歌劇場の主要なオペラ上演を多数指揮するなど活躍のメイン・フィールドをオペラに置いてきた。とりわけバイロイト音楽祭には2000年に初登場以来、23、24年を除いて毎年出演し続け、音楽面の大黒柱的存在となっている。この間、「さまよえるオランダ人」から「パルジファル」までのバイロイトで上演される10演目すべてを指揮する史上初の快挙を達成。さらに今年はバイロイト150年記念で特別上演された「ニーベルングの指環(リング)」の第3ツィクルスでバイロイトでの指揮300回を記録するに至った。さらにウィーン国立歌劇場にも定期的に客演し、ワーグナー作品などで毎回大成功を収めている。

ティーレマンが音楽面での大黒柱となっているバイロイト音楽祭の会場となるバイロイト祝祭劇場
ティーレマンが音楽面での大黒柱となっているバイロイト音楽祭の会場となるバイロイト祝祭劇場

オペラ、とりわけワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの作品を最も得意としているだけに彼の指揮者としての真骨頂は起伏に富んだ劇的な音楽作りということができよう。音楽の基本構造を堅固に構築した上でそこに巨大な建造物を築くようなスタイルは現在ではほとんど見られなくなった20世紀独墺系の巨匠指揮者のようなカリスマ性を感じさせるもので、そこがベルリンやウィーン、バイロイトなどで絶大な支持を集める要因のひとつとなっている。

もうひとつ注目すべきはオーケストラのメンバーやソリストら共演者からの厚い信頼と人気である。ウィーン・フィルの幹部団員に今、信頼している指揮者は誰かと問うと10人のうち7~8人がティーレマンの名前を挙げる。これはバイロイト祝祭管弦楽団でも同じである。彼の解釈への共感がもちろん大きいのだが、リハーサルから本番に至る過程の的確さ、手際の良さもよく耳にする。先日、ウィーン・フィルの関係者に聞いた話によると、今年のザルツブルク音楽祭のリハーサルではポイントを絞って的確に指示を出して音楽の構造を構築し終えたら時間を大幅に残してリハを終了。その見事な仕切りに楽員から拍手が沸き起こったという。これもオペラの現場で鍛えたティーレマンの実務的な手腕といえるだろう。

カミラ・ニールント
カミラ・ニールント 主催者ホームページより
ルドルフ・プッフビンダー
ルドルフ・プッフビンダー 主催者ホームページより

シュターツカペレ・ベルリンのカベルマイスターに就任して2年、両者の信頼関係は深まりつつある時期であろう。そこで得意とするリヒャルト・シュトラウスとブルックナーの作品をメインに据えて日本公演に臨む。シュトラウスのアルプス交響曲は大編成のオケを駆使してアルプス登山の1日を描いた壮大な音絵巻であり、劇的でロマンティックな表現を得意とするティーレマンにはうってつけの作品といえよう。また、ブルックナーもこの10年間でシュターツカペレ・ドレスデン、続いてウィーン・フィル相手に2度も交響曲全曲演奏を行っているほど思い入れの深い作曲家である。さらにソリストとして帯同するソプラノのカミラ・ニールント(主催者表記=ニールンド)は今年、バイロイトでティーレマンが指揮した「リング」でブリュンヒルデを演じるなど、〝ティーレマン組〟の主要メンバーのひとり。ピアニストのルドルフ・ブッフビンダーとも数多くの共演を重ねておりいずれも息の合った濃密な音世界を創出してくれるに違いない。
最後に今年、バイロイトでティーレマンの「リング」を聴いて、これまでのダイナミックさに加えて、繊細な表現に磨きがかかってきたように感じた。表現の幅をさらに広げて円熟の境地に向かって歩み始めた〝ティーレマンの今〟をぜひ聴いてみたい。

公演データ

クリスティアン・ティーレマン指揮 シュターツカペレ・ベルリン来日公演

指揮:クリスティアン・ティーレマン
ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー ※プログラムB
ソプラノ:カミラ・ニールント(主催者表記 カミラ・ニールンド) ※プログラムA
管弦楽:シュターツカペレ・ベルリン

〇プログラムA
11月17日(火)19:00 、18日(水)19:00 サントリーホール

リヒャルト・シュトラウス:4つの最後の歌
リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲

〇プログラムB
11月15日(日)16:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
11月19日(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

モーツァルト:ピアノ協奏曲 第21番ハ長調K. 467
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 WAB 104「ロマンティック」

主催者ホームページ
ベルリン国立歌劇場管弦楽団≪シュターツカペレ・ベルリン≫ | アーティスト&コンサートマネージメント 株式会社テンポプリモ

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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