錦織 健40年のキャリアを凝縮したリサイタル「バロックtoロック」
テノール歌手の錦織健がデビュー40周年を迎え、記念リサイタルが東京オペラシティ コンサートホールで開催された。モーツァルトやロッシーニ、オペレッタなどで活動を開始した錦織は、その後ソロ・リサイタルや自身によるオペラ・プロデュースなど活動の幅を広げ、多くのアルバムもリリース。NHK紅白歌合戦への2度の出演やテレビCMへの起用など、クラシックの枠を越えてお茶の間の人気者となった。
現在66歳。天性のノーブルで軽やかな声と、時に笑いを誘う芸達者ぶりは健在だ。この日も平日昼間にもかかわらず、多くの熱心なファンが詰めかけ、会場は早くから温かな空気に包まれた。
ヘンデルに始まり、日本歌曲、アニソン、後半のロッシーニ、ドニゼッティ、オペレッタ、ポップス、そしてクイーンまで。リサイタルの別名「バロックto ロック」にふさわしく、アンコール1曲を加えた全20曲を約2時間、ほぼ出ずっぱりで歌い切る。場内を爆笑に包むMCやアクションも交え、エンターテイナーとしての魅力も存分に発揮した。
徐々に喉の調子を上げ、滝廉太郎「荒城の月」のしみじみとした抒情、山田耕筰「松島音頭」の堂々たる貫禄、そして人間の機微を描く武満徹の歌曲では、美しい日本語の発声を生かし、歌詞の世界を熱くリアルに浮かび上がらせる。このパッションが爆発するのが、前半最後のアニメ「ハーメルンのバイオリン弾き」主題歌「未完成協奏曲(コンチェルト)」。自身の音楽人生のきっかけともなったアニソンを、アップテンポかつベルカントで披露し、最初のクライマックスを築く。
後半は衣装を替えて登場。「セヴィリアの理髪師」の〝空はほほえみ〟はギターを抱えて弾き語り。「伯爵夫人マリッツァ」からのアリアでは、甘い声音とレガートの魅力を存分に聴かせ、40年のキャリアの厚みと熟練とを感じさせる。
そして最後は錦織ならではのクイーン。「懐かしのラヴァーボーイ」と「ボヘミアン・ラプソディ」で、60代とは思えないリズミカルなアクションとエネルギッシュな勢いを見せ、客席を興奮の渦へと引き込む(「ハーメルンのバイオリン弾き」の作曲者、田中公平の姿もあった)。
今回のリサイタルは、錦織健40年の歌人生の轍であると同時に、現代日本の歌シーンの縮図ともいえる貴重なコンサート。まさに「人生のピークは今日です!」と嬉しそうに語った錦織の言葉どおり、ステージはポジティブなエネルギーとサービス精神に溢れていた。
アンコールもクイーン「ドント・ストップ・ミーナウ」で、すこぶる爽快。今回のステージを聴くかぎり、まだまだ活躍は続きそうだ。
(城間 勉)
公演データ
錦織 健 テノール・リサイタル
10月8日(木) 13:30東京オペラシティ コンサートホール
テノール:錦織 健
ピアノ:多田聡子
プログラム
ヘンデル:「メサイア」より〝慰めよ、わが民を慰めよ~もろもろの谷は高くせられ〟
ヘンデル:愛しい森よ
ヘンデル:泣かせてください
服部良一:蘇州夜曲
滝廉太郎:荒城の月
山田耕筰:待ちぼうけ
山田耕筰:松島音頭
武満 徹:小さな空
武満 徹:死んだ男の残したものは
田中公平:アニメ「ハーメルンのバイオリン弾き」より〝未完成協奏曲(コンチェルト)〟
ロッシーニ:「セヴィリアの理髪師」より 〝空はほほえみ〟
ドニゼッティ:「愛の妙薬」より〝人知れぬ涙〟
カールマン:「伯爵夫人マリッツァ」より〝ウィーンによろしく〟
カールマン:「伯爵夫人マリッツァ」より〝来たれ、ジプシー〟
モドゥーニョ:ヴォラーレ
サルトリ&クァラントット:タイム・トゥ・セイ・グッバイ
ビクシオ:マリウ愛の言葉を
クイーン:懐かしのラヴァーボーイ
クイーン:ボヘミアン・ラプソディ
アンコール
クイーン:ドント・ストップ・ミー・ナウ
しろま・つとむ
音楽大学で音楽学を学ぶ。卒業後はクラシック専門音楽雑誌とクラシック情報誌の編集業務に携わり、2022年からフリーランスとして活動。とくに好きなジャンルは協奏曲、ピアノ曲、オペラなど(もちろんそれ以外のジャンルも聴きます)。B級グルメ探訪を趣味としている。イヌ科の動物を愛する。










