~85~ オーケストラのアーカイヴ(演奏会記録)について

特色溢れるオーケストラやホールのアーカイヴ
特色溢れるオーケストラやホールのアーカイヴ

小澤征爾氏が亡くなって、いくつかの原稿を書いたが、そのとき、彼が長く音楽監督を務めたボストン交響楽団とキャリアの最初に副指揮者のポストに就いたニューヨーク・フィルのアーカイヴがとても役に立った。ボストン響のアーカイヴはPerformance History Search (bso.org)であり、ニューヨーク・フィルのアーカイヴはNew York Philharmonic | Digital Archives (nyphil.org)である。

 

ボストン響のアーカイヴもニューヨーク・フィルのアーカイヴも、演奏者、曲目、日付などのキーワードで検索すると、その演奏会のデータがたちどころに現れる。そして、どちらも、その演奏会当日のプログラム冊子の中身を画像で見ることができる。

 

昔、小澤征爾の本を書いたとき、演奏会データを当該の楽団から取り寄せたり、どうしても手に入らないとき(彼が音楽監督を務めたサンフランシスコ交響楽団がそうだった)は、地元(サンフランシスコ)の図書館まで行って、過去の新聞にあたったりしたことを思えば、隔世の感であった。

 

ニューヨーク・フィルのアーカイヴは「デジタル・アーカイヴ」と名乗っているだけあって、そこで扱われている情報は演奏会だけにとどまらない。マーラー自身の書き込みのある彼の交響曲のスコアやバーンスタインの書き込みのあるベートーヴェンやマーラーの作品のスコアを画像で見ることもできる。

 

アメリカでは、カーネギーホールのアーカイヴ(Performance History Search | Carnegie Hall)も便利である。カーネギーホールは1891年のオープン以来の演奏会のデータを完備している。

 

歴史のあるメジャーなオーケストラは、過去の記録を大切にする。ウィーン・フィルのアーカイヴ(公演アーカイブ – ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (wienerphilharmoniker.at)も、1842年の創設以来の演奏会のデータが入っていて、とても有益である。たとえば、ブラームスやブルックナーが指揮者としてウィーン・フィルを振った演奏会のデータも検索することができる。

 

日本では、オーケストラよりもホールの方が記録を残すことに力を注いでいるように思われる。東京では、東京文化会館とサントリーホールのアーカイヴが役に立つ(東京文化会館のアーカイヴは東京文化会館 アーカイブ (t-bunka.jp) 、サントリーホールのアーカイヴはサントリーホール 公演アーカイブ (suntory.co.jp))。

 

東京のオーケストラ界は、戦前戦後は日比谷公会堂がクラシック音楽のメッカであったが、1961年に東京文化会館がオープンすると東京文化会館がクラシック音楽の殿堂となった。その後、1986年にサントリーホールがオープンし、オーケストラ音楽の中心はサントリーホールに移った。つまり、東京文化会館とサントリーホールのアーカイヴを検索すれば、かなりの情報をもって20世紀後半からの東京のオーケストラ界の歴史を知ることができるのである。

 

オーケストラでは、東京都交響楽団のコンサート・アーカイヴス(コンサートアーカイブ|東京都交響楽団 (tmso.or.jp))が有益である。他のオーケストラもこれくらい使いやすいアーカイヴを作ってほしいものである。

 

オーケストラが進化するには、まずは自らの歴史を重んじることが大切であると思う。そのためにもアーカイヴの重要性がますます増しているといえるだろう。

山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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