芸術の秋、クラシック音楽界も新シーズンの幕開けとなる。今月は8月に開催されたステージからピカイチを、10月に予定されている公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。
先月のピカイチ
◆◆8月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
神戸市室内管弦楽団 第174回定期演奏会 喜歌劇「スザンナの秘密」
8月1日(土)神戸文化ホール 大ホール
小林資典(指揮)/籔川直子(演出)/森谷真理(伯爵夫人スザンナ)/大西宇宙(ジル伯爵)/いいむろなおき(サンテ)
ストラヴィンスキー:組曲「プルチネルラ」/ヴォルフ=フェラーリ:喜歌劇「スザンナの秘密」(セミ・ステージ形式)
次点
フェスタサマーミューザKAWASAKI 2026 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
8月5日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール
藤岡幸夫(指揮)/野々村彩乃(ソプラノ)
ビゼー:「カルメン」より第1幕前奏曲と「ハバネラ」/シャブリエ:「スペイン」/ ドリーブ:「カディスの娘たち」/チャピ:「セベデオの娘たち」より「囚われ人の歌」/ ファリャ:「三角帽子」全曲、他
コメント
~優麗 爽やか、神戸市室内管の「スザンナ…」~
神戸市室内管が小林資典の指揮で取り上げた「スザンナの秘密」は、実に優麗で爽やかな演奏だった。大西と森谷の歌唱、いいむろなおきのパントマイムも明るく温かい味を出し、このしゃれたオペラを生き生きと蘇らせた。一方、シティ・フィルは首席客演指揮者・藤岡幸夫のもと、豊かな響きの弦と豪快な管・打楽器のアンサンブルにより、沸き立つような快演で「三角帽子」全曲を再現。同オケの最近の充実ぶりを讃える意味でここに推す。
来月のイチオシ
◆◆10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
京都市交響楽団 第716回定期演奏会
10月9日(金)、10日(土)京都コンサートホール 大ホール
上岡敏之(指揮)
ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」/ブルックナー:交響曲第6番
次点
東京都交響楽団 第1054回定期演奏会Bシリーズ/都響スペシャル
10月21日(水)、22日(木)サントリーホール
マルク・ミンコフスキ(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番(1887年ノヴァーク版第1稿)
コメント
~意外? 期待? ブルックナー~
上岡敏之が京響に客演。「トリスタン」はまず問題ないとしても、ブルックナーの6番をどのように振るか。まさかまた以前の7番のように、通常よりも20分以上も時間の延びるテンポで演奏するのでは? 「怖いもの聴きたさ」でイチオシにしよう。一方ミンコフスキと都響の8番の方は、「第1稿」による演奏が興味の的だが、3年前の5番も快速テンポの明晰・明快な音の大建築だったので、期待充分ゆえここに取り上げる。
先月のピカイチ
◆◆8月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラ コンサート Bプログラム
8月29日(土)キッセイ文化ホール
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ
ブルックナー:交響曲第8番(ハース版)
次点
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 すみだトリフォニーホール・特別シリーズ第1回
8月13日(木)すみだトリフォニーホール
高関健(指揮)/木下美穂子(ソプラノ)/宮里直樹(テノール)/大西宇宙(バリトン)/東京シティ・フィル・コーア/江東少年少女合唱団
ブリテン:戦争レクイエム
コメント
~いずれも快演 緻密な作りの大曲2選~
実質的には両者同率の「一番」。ロト/サイトウ・キネン〜のブルックナーは、強靭なオーケストラの威力を存分に生かした緊迫感漂う名演。オルガン的な響きや宗教的なテイストは感じさせないながらも、同作曲家の様式感を踏まえた上で、緻密な動きやシンフォニックな魅力を明示した。シティ・フィルの「戦争レクイエム」は、高関の精緻でピュアな音楽作りが胸に沁みた快演。3グループの演奏陣─特に児童合唱─の配置も絶妙だった。
来月のイチオシ
◆◆10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
東京都交響楽団 第1053回定期演奏会Bシリーズ/都響スペシャル
10月9日(金)サントリーホール/10日(土)すみだトリフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番/ブルックナー:交響曲第6番(ノヴァーク版)
次点
東京都交響楽団 第1054回定期演奏会Bシリーズ/都響スペシャル
10月21日(水)、22日(木)サントリーホール
マルク・ミンコフスキ(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番(1887年ノヴァーク版第1稿)
コメント
~個性派マエストロのブルックナー対決~
在京オーケストラの公演等、他に推したいコンサートも多い中、注目の個性派マエストロが都響を指揮するブルックナーの交響曲に焦点を絞った。ノットは東響での実績から、重層的な都響を振っていかなる音楽を紡ぎ出すか? 大いに楽しみ。またケフェレックが弾くベートーヴェンの4番も、彼女の持ち味に最適と思しき曲調ゆえに聴き逃せない。ミンコフスキは8番の第1稿におけるアプローチが興味津々。ここは新鮮な感触が期待される。
先月のピカイチ
◆◆8月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
佐藤正浩プロデュース いずみホール・オペラ2026「ウェルテル」
8月8日(土)住友生命いずみホール
佐藤正浩(プロデュース/指揮)/宮里直樹(ウェルテル)/池田香織(シャルロット)/甲斐栄次郎(アルベール)/石橋栄実(ソフィー)/妻屋秀和(大法官)他/岸和田市少年少女合唱団/ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
マスネ:「ウェルテル」(演奏会形式)
次点
セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラ コンサートAプログラム
8月22日(土)キッセイ文化ホール
沖澤のどか(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)/サイトウ・キネン・オーケストラ
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
コメント
~いずみホールの素晴らしき「ウェルテル」~
「ウェルテル」は今年5月の新国立劇場再演も素晴らしい舞台だったが、いずみホールの演奏会形式上演は音楽的に互角の説得力を発揮した。何よりタイトルロール初挑戦の宮里直樹の美声と情熱が素晴らしく、シャルロットの池田香織、アルベールの甲斐栄次郎らも高水準の歌唱。フランス音楽を熟知した佐藤正浩の指揮も優れていた。夏の松本ではロト指揮のブルックナーも良かったが、務川慧悟の神がかり的ピアノを得た「トゥランガリーラ」の鮮烈な響きからは、新しい時代の鼓動を確かに聴いた。
来月のイチオシ
◆◆10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
新国立劇場 ロッシーニ「イタリアのトルコ人」新制作
10月2日(金)、4日(日)、7日(水)、10日(土)、12日(月・祝)新国立劇場 オペラパレス
アレッサンドロ・ボナート(指揮)/ロラン・ペリー(演出・衣裳)/アレハンドロ・バリニャス・ビエイテス(セリム)/クラウディア・ムスキオ(ドンナ・フィオリッラ)/パオロ・ボルドーニャ(ドン・ジェローニオ)/ルジル・ガティン(ドン・ナルチーゾ)/ブルーノ・タッディア(詩人プロスドーチモ)、他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
次点
石川県立音楽堂開館25周年記念スペシャルコンサート「森のうた」
10月22日 (木) 石川県立音楽堂 コンサートホール
山田和樹(指揮)/野村萬斎(演出・出演)/宮里直樹(テノール)/加藤宏隆(バス)/東京混声合唱団、OEK合唱団/「森のうた」児童合唱団/オーケストラ・アンサンブル金沢
ベートーヴェン/山本直純〝変〟曲:交響曲第45番「宿命」/ショスタコーヴィチ:オラトリオ「森のうた」
コメント
~フレッシュな顔ぶれ 「イタリアのトルコ人」に期待~
新国立劇場の2026/27シーズン開幕演目はロッシーニのブッファ(喜歌劇)、「イタリアのトルコ人」。筆者は2003年3月の藤原歌劇団公演以来実演に接していないので、かなり久々の鑑賞体験となる。新世代の指揮者、歌手のフレッシュな演奏とペリーの才気あふれる演出に期待。石川県立音楽堂のオープニングで池辺晋一郎への委嘱新作を岩城宏之の指揮で聴いてからもう四半世紀も経つのか! 岩城の名著「森のうた」にショスタコーヴィチの問題作を重ねたネーミングに、山田和樹のセンスが光る。
先月のピカイチ
◆◆8月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラ コンサートAプログラム
8月22日(土)キッセイ文化ホール
沖澤のどか(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)/サイトウ・キネン・オーケストラ
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
次点
サントリーホール開館40周年記念「時を編む響」
8月27日(木)サントリーホール
出演者 沼尻竜典(指揮)/砂田愛梨(ソプラノ)/小林愛実(ピアノ)/成田達輝、石上真由子(ヴァイオリン)他/東京交響楽団
第1部 カミーユ・ペパン:弦楽四重奏のための「シルヴァカームの水の葉」(日本初演)他
第2部 三善晃:ソプラノと管弦楽のための「決闘」/武満徹:ピアノと管弦楽のための「リヴァラン」
第3部 トーマス・アデス:ヴァイオリンと管弦楽のための「アリア」~シベリウスへのオマージュ(日本初演)他
コメント
~松本に鳴り響いた豪壮なメシアン~
サイトウ・キネン・オーケストラという世界に誇る名手揃いの「トゥランガリーラ交響曲」は豪壮な響きと一つ一つの楽器が奏でる旋律の際立ちが圧巻。その中で務川のピアノが一層存在感を放っていたのも強く印象に残った。サントリーホールの「時を編む響」は60年代に初演された三善晃から2020年代のアデスまで現代音楽の変遷を一晩で体験できる好企画。砂田、小林、成田らが取り組む現代作品という点でも聴き応え十分だった。
来月のイチオシ
◆◆10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
新国立劇場 ロッシーニ「イタリアのトルコ人」新制作
10月2日(金)、4日(日)、7日(水)、10日(土)、12日(月・祝)新国立劇場 オペラパレス
アレッサンドロ・ボナート(指揮)/ロラン・ペリー(演出・衣裳)/アレハンドロ・バリニャス・ビエイテス(セリム)/クラウディア・ムスキオ(ドンナ・フィオリッラ)/パオロ・ボルドーニャ(ドン・ジェローニオ)/ルジル・ガティン(ドン・ナルチーゾ)/ブルーノ・タッディア(詩人プロスドーチモ)、他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
次点
東京都交響楽団 第1053回定期演奏会Bシリーズ/都響スペシャル
10月9日(金)サントリーホール/10日(土)すみだトリフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/アンヌ・ケフェレック(ピアノ)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番/ブルックナー:交響曲第6番(ノヴァーク版)
コメント
~新国立劇場、初登場ロッシーニの名作~
新国立劇場シーズン幕開けを飾るのは、ロッシーニ歌いが揃った「イタリアのトルコ人」。24年の「夢遊病の女」で圧倒的な声と演技で聴衆を魅了したムスキオや当劇場初登場となるビエイテス、指揮のボナート他音楽面は勿論、演出ロラン・ペリーの洒脱な切り口で描く喜劇性を存分に楽しめるだろう。国内外で絶大な人気を誇る指揮者ノットが都響に初登場。ケフェレックとのベートーヴェン、ブルックナーの6番という曲目にも要注目。
先月のピカイチ
◆◆8月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラ コンサートAプログラム
8月22日(土)キッセイ文化ホール
沖澤のどか(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)/サイトウ・キネン・オーケストラ
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラ コンサート Bプログラム
8月29日(土)キッセイ文化ホール
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ
ブルックナー:交響曲第8番(ハース版)
次点
なし
コメント
~サイトウ・キネン・オーケストラ ポテンシャル全開の快演~
8月は国内での公演取材が少なかったこともあり、OMFのオケ公演2件を同率でピカイチに、次点はなしとした。ロト指揮のブルックナー8番については速リポの拙稿(セイジ・オザワ松本フェスティバル2026 オーケストラ コンサート Bプログラム | CLASSICNAVI)をご覧いただきたい。沖澤が指揮した「トゥランガリーラ交響曲」も彼女の個性が反映された非凡な演奏。複雑に絡み合う声部を丹念に整理して美しく聴かせた。両公演とも指揮者の高度な要求に応えたサイトウ・キネン・オケの圧倒的なポテンシャルを実感させるものであった。
来月のイチオシ
◆◆10月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
N響100周年&サントリーホール40周年 プッチーニ「トスカ」
10月10日(土)、12日(月・祝)サントリーホール
ファビオ・ルイージ(指揮)/エレーナ・スティッキーナ(トスカ)/リッカルド・マッシ(カヴァラドッシ)/アンブロジオ・マエストリ(スカルピア男爵)他/東京オペラシンガーズ/NHK東京児童合唱団/NHK交響楽団
プッチーニ:オペラ「トスカ」(演奏会形式)
次点
東京都交響楽団 第1054回定期演奏会Bシリーズ/都響スペシャル
10月21日(水)、22日(木)サントリーホール
マルク・ミンコフスキ(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番(1887年ノヴァーク版第1稿)
コメント
~ルイージ&N響による初のオペラ「トスカ」~
10月は在京オケの注目公演が目白押し。イチオシはN響首席指揮者に就任以来、初めて同オケとオペラの全曲演奏に取り組むルイージの「トスカ」。気心が知れたN響相手にオペラ指揮者としての手腕を発揮してくれることだろう。次点はミンコフスキと都響のブルックナー8番。1887年初稿というのも彼ならではの選択。斬新な解釈で作品の原点に迫ってくれるはずだ。都響では9、10日にジョナサン・ノットとのブルックナー6番も予定されておりこちらも要注目。










