東京・春・音楽祭、ムーティの「ドン・ジョヴァンニ」、全国各地のオーケストラの熱演、賑やかな春から初夏へと季節は進み、音楽シーンもますます熱くなっていく気配。そこで今回は4月開催のステージからピカイチを、6月開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。
先月のピカイチ
◆◆4月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京春祭 ベートーヴェン ピアノ協奏曲全曲演奏会Ⅱ〉
4月6日(月)東京文化会館大ホール
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)/東京春祭オーケストラ
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番、同第5番「皇帝」
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〈東京二期会オペラ劇場 ベルク:「ルル」〉
4月17日(金)新国立劇場オペラパレス
オスカー・ヨッケル(指揮)/カロリーネ・グルーバー(演出)/冨平安希子(ルル)/川合ひとみ(ゲシュヴィッツ伯爵令嬢)/大沼徹(シェーン博士)/山本耕平(アルヴァ)/狩野賢一(シゴルヒ)他/中村蓉(ルルの魂=ダンサー)/東京フィルハーモニー交響楽団
ベルク:オペラ「ルル」2幕版
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~弾き振りによるブッフビンダーの最高の快演~
これまで何度も聴いたブッフビンダーの演奏の中でも最高の快演というべく、彼が指揮者との協演でなく自らの解釈のみで協奏曲を弾き振りすれば、かくも激しい感情豊かな演奏をつくる人なのだということを初めて教えられた一夜。「ルル」の方は再演で、終場面のパントマイム化にはあまり賛同できないものの、5年前のコロナ流行期に観た時よりも舞台がずっと華麗な動きになり、グルーバーの演出意図も明確になった感がある。
来月のイチオシ
◆◆6月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈新国立劇場 R・シュトラウス:「エレクトラ」新演出〉
6月29日(月)、7月2日(木)、5日(日)、8日(水)、12日(日)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/ヨハネス・エラート(演出)/アイレ・アッソーニ(エレクトラ)/藤村実穂子(クリテムネストラ)/ヘドヴィグ・ハウゲルド(クリソテミス)/エギルス・シリンス(オレスト)/工藤和真(エギスト)他/東京フィルハーモニー交響楽団
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〈東京都交響楽団 第1045回定期演奏会Aシリーズ〉
6月13日(土)東京芸術劇場コンサートホール
ペッカ・クーシスト(指揮・ヴァイオリン)
タルキアイネン:「生命の激流」(日本初演)/ハイドン:交響曲第45番「告別」/ラウタヴァーラ:交響曲第7番「光の天使」
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~待望の22年ぶり新国立劇場の「エレクトラ」新演出~
音楽の迫力とストーリーの物凄さで「サロメ」をはるかに凌ぐ「エレクトラ」。新国立劇場が22年ぶりに新演出で上演する。やっと来たか、という感だ。芸術監督・大野和士みずからの指揮にも期待しよう。一方、都響の「アーティスト・イン・レジデンス」に就任したフィンランドの指揮者クーシスト(2年後に首席指揮者就任予定)が、いきなり自国の現代作品2曲(日本初演曲を含む)をぶちかます高飛車(?)な選曲で臨む初定期も興味津々。
先月のピカイチ
◆◆4月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈読売日本交響楽団 第657回定期演奏会〉
4月28日(火)サントリーホール
アイヴァー・ボルトン(指揮)/ベス・テイラー(天使)/トーマス・アトキンス(ゲロンティアス/魂)/クリストファー・モルトマン(司祭/苦悶の天使)/新国立劇場合唱団
エルガー:オラトリオ「ゲロンティアスの夢」
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〈アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル2026〉
4月1日(水)サントリーホール
J・S・バッハ:フーガの技法
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~作品の真価に迫ったボルトン&読響のエルガー~
ボルトン&読響のエルガーは、作品のピュアな美しさやドラマ性を見事に表出した快演。声楽陣の好演も相まって、作品の真価を実感させられた。ボルトンは、一週前の読響とのウィーン古典派プロでも生き生きとした音楽を紡ぎ出し、なぜか降板した東京春音楽祭のハイドン「四季」も彼の指揮だったならば!と心底思わせた。シフは一筋縄ではいかないバッハ晩年の謎めいた作品をストレートかつ味わい深く表現。曲の真の姿を知らしめた。
来月のイチオシ
◆◆6月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈サントリー・チェンバーミュージック・ガーデン2026エベーヌ弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル〉
6月9日(火)、10日(水)、12日(金)、13日(土)、15日(月)、16日(火)サントリーホール ブルーローズ ※いずれも完売
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 全曲
次点
〈調布国際音楽祭2026鈴木雅明×フェスオケ マーラー「巨人」〉
6月27日(土)調布グリーンホール
鈴木雅明(指揮)/松田華音(ピアノ)/調布国際音楽祭フェスティバル・オーケストラ
ヘンデル:合奏協奏曲「アレキサンダーの饗宴」/モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番/マーラー:交響曲第1番「巨人」
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~厳選2公演、2つのフェスティバルから~
今回選んだのは2つのフェスティバル。共に全体がお薦めだが、ここでは特に注目すべき公演を挙げた。まずは恒例のベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏に世界最高クラスのグループが登場するとなれば、聴き逃せるはずもない。エベーヌQは以前のベートーヴェン・シリーズでも精緻かつ雄弁な名演を聴かせたが、チェロが岡本侑也に代わってどうなるか? また調布は珍しい鈴木雅明のマーラー表現やいかに? 何れも極めて興味深い。
先月のピカイチ
◆◆4月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈東京春祭2026プッチーニ・シリーズ vol.7「マノン・レスコー」〉
4月16日(木)東京文化会館大ホール
ピエール・ジョルジョ・モランディ(指揮)/イヴォナ・ソボトカ(マノン・レスコー)/ルーチョ・ガッロ(レスコー)/リッカルド・マッシ(デ・グリュー)/湯浅貴斗(ジェロンテ)/大槻孝志(エドモンド)他/新国立劇場合唱団/読売日本交響楽団
次点 同率2公演
〈アンナ・プロハスカwith ジョヴァンニ・アントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコ〉
4月4日(土)TOPPANホール
ジョヴァンニ・アントニーニ(指揮・リコーダー)/アンナ・プロハスカ(ソプラノ)/イル・ジャルディーノ・アルモニコ
パーセル:「ディドとエネアス」より序曲/サルトリオ:「エジプトのジューリオ・チェーザレ」より〝愛したくなどない〟/サンマルティーニ:リコーダー協奏曲/カヴァッリ:「ディドーネ」より〝誇り高きジェトゥーリの王よ〟他
〈アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル2026〉
4月1日(水)サントリーホール
J・S・バッハ:フーガの技法
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~気迫に満ちたモランディの「マノン・レスコー」~
東京・春・音楽祭のプッチーニは読売日本交響楽団が担い、歌劇場のオーケストラではないアンサンブルが舞台上で奏でるスコアの醍醐味を味わわせてくれる。今回は指揮者モランディの気迫が凄まじく、キャストにも人を得たので作品の良さも改めて知ることができた。アントニーニとプロハスカが描くディドとクレオパトラの 仄(ほの)暗い世界、シフが70代になって自らの〝禁〟を解いた「フーガの技法」の深遠な迷宮のそれぞれも、長く心に残る名演奏だったと思う。
来月のイチオシ
◆◆6月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈サントリー・チェンバーミュージック・ガーデン2026エベーヌ弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル〉
6月9日(火)、10日(水)、12日(金)、13日(土)、15日(月)、16日(火)サントリーホール ブルーローズ ※いずれも完売
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 全曲
次点 同率2公演
〈日本フィルハーモニー交響楽団 創立70周年記念特別演奏会〉
6月21日(日)、22日(月)サントリーホール
カーチュン・ウォン(指揮)/船越亜弥(罪深き女)/吉田珠代(懺悔する女)/三宅理恵(栄光の聖母)/花房英里子(サマリアの女)/中島郁子(エジプトのマリア)/宮里直樹(マリア崇敬の博士)/青山貴(法悦の教父)/加藤宏隆(瞑想する教父)/日本フィルハーモニー協会合唱団、他
マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」
〈大阪交響楽団 シューマン交響曲全曲演奏会 Vol.1〉
6月18日(木)箕面市立メイプルホール
上岡敏之(指揮)
シューマン:交響曲第一番「春」、第4番
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~ホールとオーケストラの各創立記念2公演選~
エベーヌ弦楽四重奏団が世界5大陸で行ったベートーヴェン全曲プロジェクトから5年以上経過、チェロに岡本侑也を迎えた新体制で、サントリーホール開館40周年記念のベートーヴェン・サイクルに臨む。オーケストラでは日本フィル創立70周年のマーラー「千人の交響曲」が楽しみ。2日目の6月22日が創立記念日だ。大阪交響楽団が箕面市メイプル文化財団と組んで展開するマニアックなシリーズには鬼才上岡が遂に降臨、音楽史上の問題作であり続けるシューマンにどのようなメスを施すか?
先月のピカイチ
◆◆4月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
同率2公演
〈アンナ・プロハスカwith ジョヴァンニ・アントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコ〉
4月4日(土)TOPPANホール
ジョヴァンニ・アントニーニ(指揮・リコーダー)/アンナ・プロハスカ(ソプラノ)/イル・ジャルディーノ・アルモニコ
パーセル:「ディドとエネアス」より序曲/サルトリオ:「エジプトのジューリオ・チェーザレ」より〝愛したくなどない〟/サンマルティーニ:リコーダー協奏曲/カヴァッリ:「ディドーネ」より〝誇り高きジェトゥーリの王よ〟他
〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.17 ワーグナー「さまよえるオランダ人」〉
4月7日(火)東京文化会館 大ホール
アレクサンダー・ソディ(指揮)/タレク・ナズミ(ダーラント)/カミラ・ニールント(ゼンタ)/デイヴィッド・バット・フィリップ(エリック)/オッカ・フォン・デア・ダメラウ(マリー)/ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(オランダ人)他/東京オペラシンガーズ/NHK交響楽団
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」(演奏会形式)
次点
なし
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~圧巻のアントニーニ&東京春祭のワーグナー~
ディドとクレオパトラという2人の女王を様々な作曲家の作品をパッチワークのように繋いでみせたプロハスカとアントニーニ。自由な精神に貫かれた衝撃の舞台は、最先端の音楽を聴いているようだった。
東京春祭ワーグナー・シリーズ初登場のソディ、ドラマティックな音作りと緩急巧みな指揮で一気に聴かせる。ニールント(主催者表記=ニールンド)とバット・フィリップ、ダメラウ、合唱が特に印象に残る歌を聴かせ、N響の深いワーグナーの響きも美しかった。
来月のイチオシ
◆◆6月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京都交響楽団 第1046回定期演奏会Bシリーズ/都響スペシャル〉
6月19日(金)/20日(土)サントリーホール
ペッカ・クーシスト(指揮&ヴァイオリン)
シベリウス:組曲「恋人」/アンデシュ・ヒルボリ:バッハ・マテリア(日本初演)/アンドレア・タッローディ:「きりん座」(日本初演)/シベリウス:交響曲第5番
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〈日本フィルハーモニー交響楽団 創立70周年記念特別演奏会〉
6月21日(日)、22日(月)サントリーホール
カーチュン・ウォン(指揮)/船越亜弥(罪深き女)/吉田珠代(懺悔する女)/三宅理恵(栄光の聖母)/花房英里子(サマリアの女)/中島郁子(エジプトのマリア)/宮里直樹(マリア崇敬の博士)/青山貴(法悦の教父)/加藤宏隆(瞑想する教父)/日本フィルハーモニー協会合唱団、他
マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」
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~都響に新風吹き込むクーシスト、マーラーの大作に挑むウォン~
ペッカ・クーシストと都響の2度にわたる共演(23年、24年)は、いずれもインスピレーションにあふれ、生まれたての音楽を聴いているような感覚を覚えた。今回は現代曲からシベリウスの名曲まで楽しみなプログラム、2年後の首席指揮者就任に向けてクーシストの個性が都響にもたらす新風に注目したい。
数々のマーラーで名演を披露してきたカーチュン・ウォンと日フィル、持ち前の明晰なタクトによる「千人の交響曲」は必聴だ。
先月のピカイチ
◆◆4月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.17 ワーグナー「さまよえるオランダ人」〉
4月5日(日)東京文化会館 大ホール
アレクサンダー・ソディ(指揮)/タレク・ナズミ(ダーラント)/カミラ・ニールント(ゼンタ)/デイヴィッド・バット・フィリップ(エリック)/オッカ・フォン・デア・ダメラウ(マリー)/ミヒャエル・クプファー=ラデツキー(オランダ人)他/東京オペラシンガーズ/NHK交響楽団
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」(演奏会形式)
次点
〈京都市交響楽団 東京公演〉
4月14日(火)サントリーホール
沖澤のどか(指揮)/堤剛(チェロ)
R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/矢代秋雄:チェロ協奏曲/R・シュトラウス:「家庭交響曲」
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~「…オランダ人」に見たオペラ指揮者ソディの手腕~
東京春祭ワーグナー・シリーズ「さまよえるオランダ人」はソディのオペラ指揮者としての手腕が存分に発揮された充実のステージ。ゼンタのニールントの繊細な表現も良かった。(詳細は東京・春・音楽祭2026 東京春祭ワーグナー・シリーズvol.17「さまよえるオランダ人」 | CLASSICNAVI)。次点は難曲といわれる「家庭交響曲」をバランスよくまとめ、美しく聴かせた沖澤の手腕が光る京都市響の東京公演。彼女は早くも京響を細部まで掌握したことが窺えた。
来月のイチオシ
◆◆6月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団 日本公演〉
6月8日(月)サントリーホール/9日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール
※いずれも完売。熊本、兵庫ほか地方公演あり
タルモ・ペルトコスキ(指揮)/辻井伸行(ピアノ)
(8日)ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲/マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
(9日)ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/ショスタコーヴィチ:交響曲第10番
次点
〈新国立劇場 R・シュトラウス:「エレクトラ」新演出〉
6月29日(月)、7月2日(木)、5日(日)、8日(水)、12日(日)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/ヨハネス・エラート(演出)/アイレ・アッソーニ(エレクトラ)/藤村実穂子(クリテムネストラ)/ヘドヴィグ・ハウゲルド(クリソテミス)/エギルス・シリンス(オレスト)/工藤和真(エギスト)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
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~気鋭ペルトコスキ フランス・オケとの相性はいかに~
昨年6月のN響定期で衝撃の日本デビューを果たしたペルトコスキ。25歳の彼が指揮した定期は聴衆の投票でルイージ、ブロムシュテットら名指揮者らを抑えて堂々の1位に選ばれた。楽員の間でも「デュトワやヤノフスキのような厳しさ」と話題を呼んだ。今度はフランスのオケとどんな演奏をするのか興味深い。次点は新国の「エレクトラ」。調性が崩壊寸前の複雑な楽曲こそ大野の捌きが冴えわたる。ドイツで活躍する気鋭のエラートの演出も期待。










