才気煥発な指揮ぶり! カンブルランが得意の現代音楽で響きの変化に富んだ演奏を聴かせる
2010年から9シーズンにわたって読売日本交響楽団の常任指揮者をつとめ、現在はその桂冠指揮者の地位にある、シルヴァン・カンブルランの指揮による演奏会。
1908年初演のウェーベルンから1965年と89年初演のデュティユー2作をへて2025年初演のシン・ドンフンの作品までと、20世紀の始点から現在までの流れを追うようなプログラムは、いかにも現代音楽を得意とするこの人らしいもの。常任指揮者時代の才気煥発ぶりを思い出して、こちらも嬉しくなる。
まずはウェーベルンのパッサカリア。弦によるpppの最弱音のピツィカートで始まり、ときに高潮しながら、静かに終わる。
この、弾く音で開始して途中で盛りあがるが最後は静か、という構成がこのあとの3曲にもすべて共通していたのは、もちろんカンブルランの仕掛けだろう。相似や対照によって曲目に関連性を与え、しかもそれを説明せずに聴衆に推理させるのが、この人の得意技なのだ。一夜の始まり、音楽の歴史における一つのエポックの始まりなど、いろいろな意味での始まりが、このウェーベルンの作品番号1なのだろう。
その響きはエレガントで、しばしば官能的。ゲスト・コンサートマスターの白井圭がリードする読響の繊細で澄んだ響きも美しい。
続いては韓国出身で、ここ数年欧米での活躍が目立つシン・ドンフンのヴィオラ協奏曲「糸の太陽たち」の日本初演。これも叙情性を基調としながら、さまざまな打楽器が色を添え、中間で高潮する。
ヴィオラ・ソロは、かつてエルサレム弦楽四重奏団のメンバーとして活躍、現在はベルリン・フィルの第1ソロ奏者をつとめる、アミハイ・グロス。やわらかく甘美な響きが魅力的で、息の長い旋律線を伸びやかにひききる。ソリスト・アンコールはバッハの無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュードで、これも優美に聴かせてくれた。
後半は、カンブルラン得意の現代フランス作品から、デュティユーを2曲。10曲の小品が連続して演奏される「瞬間の神秘」は弦五部を8-6-4-4-2に縮小した編成で、一夜のなかで響きに変化をもたせる。ツィンバロンのエキゾチックな響きが印象的。
おしまいはこの作曲家の代表作「メタボール」。四管編成の大編成を巧みにドライヴし、総奏とソロのクローズアップの強弱の変化も鮮明で機能的。出来ばえに満足がいったのか、終演後のカンブルランはとても嬉しそうな表情でオーケストラを讃え、喝采に応えていた。
(山崎浩太郎)
公演データ
読売日本交響楽団 第658回定期演奏会
5月20日(水)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:シルヴァン・カンブルラン
ヴィオラ:アミハイ・グロス
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:白井 圭
プログラム
ウェーベルン:パッサカリアOp.1
シン・ドンフン:ヴィオラ協奏曲「糸の太陽たち」(日本初演)
デュティユー:瞬間の神秘
デュティユー:メタボール
ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番より「プレリュード」
やまざき・こうたろう
演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。










