チューリッヒ・トーンハレ管を精密にコントロールして自らの意思を貫く演奏を聴かせたパーヴォ・ヤルヴィ
スイスの名門、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団が音楽監督パーヴォ・ヤルヴィとともに来日。その東京公演初日を聴いた。
前半は反田恭平をソリストにベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。弦楽器の編成は12型で対抗配置、管楽器は譜面の指定通りの数。ティンパニは口径の小さなバロック型に近い(ペダルではなくシングル・ハンドルで音替えをする)タイプの楽器を使用していた。ピリオド奏法に寄せた演奏かと思いきや、弦楽器は適度にヴィブラートをかけて弾くなど〝折衷型〟ともいえるスタイル。楽曲の構造をクリアに聴かせる音作りはNHK交響楽団首席指揮者時代から日本の聴衆にはお馴染みの〝パーヴォ流〟であり、それはトーンハレ管でも貫かれていた。
第1楽章は少し速めのテンポで機敏に音楽が進む。そうした流れの中で反田は装飾音符に工夫を加えて弾くなど、随所で自身の個性を発揮。第1楽章はパーヴォ主導の印象が強かったが第2楽章になると一転、反田の個性が全開に。反田はテンポをグンと落として情感タップリに各旋律を歌い込んでいく。パーヴォとトーンハレ管はそうした反田のソロに柔らかく寄り添うように支えた。第3楽章は再びパーヴォ流が前面に打ち出され、スリムで引き締まったサウンドと活発な推進力に反田も力強いタッチで応じてアグレッシブなアンサンブルが繰り広げられた。
後半はブルックナーの第4番。プログラム誌の記載では使用した版は第2稿(1878/80)とあったが、これをベースとしながらも別の稿の要素も一部取り入れられていた。弦楽器の編成は16型で管楽器は譜面の指定通りの数。ここでもパーヴォ流が貫かれており、ブルックナー独特の厚いハーモニーの構成要素がまるで〝見える〟かのようにクリアに聴き取ることができた。金管楽器が活躍するフォルティシモのトゥッティでも各パートのバランスがち密に調整されていた。提示部第1主題ではトランペットが一段強めに。展開部のコラールではトランペットはやや抑え気味でトロンボーン、テューバそしてホルンが主軸となって荘厳な響きを構築していた。こうした細密なバランス調整が全曲の随所で行われていた。
テンポの緩急もドラスティック。第1、4楽章はかなり速めで強い推進力をもって音楽が進められたが第2、3楽章は落ち着いたテンポで両端楽章との性格の違いを鮮やかに表現していた。
第4楽章のコーダまで勢いをもって進んでいったが最後の一音にはアクセントを付けずに柔らかく着地させたのも面白かった。今のトーンハレ管は少し渋めながら豊かな響きが魅力的なオケであった。パーヴォはこのオケの安定した技術力を縦横に活用して、自らの意思を透徹させたブルックナーを聴かせた。
(宮嶋極)
公演データ
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 東京公演
ピアノ 反田恭平
5月18日(月)19:00 サントリーホール 大ホール
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ピアノ:反田恭平
管弦楽:チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
プログラム
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調Op.37
ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調WAB104「ロマンティック」
ソリスト・アンコール
ブラームス=ブゾーニ:11のコラール 前奏曲 Op.122-8
他日公演
5月21日(木)19:00すみだトリフォニーホール(東京)
5月22日(金)18:45愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
5月23日(土)14:00ザ・シンフォニーホール(大阪)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










