現代音楽界のスター、ジョン・アダムズと都響が待望の再共演! 大作「ハルモニウム」で壮大な音の坩堝(るつぼ)を生み出す
24年1月に東京都交響楽団の定期演奏会で指揮者として日本デビューを果たし、自作を披露した世界的作曲家アダムズが再び同団と共演した。今回は「ナイーヴ・アンド・センティメンタル・ミュージック」(1999)と「ハルモニウム(1980)」の間に、アダムズが尊敬してやまないというアイヴズの「答えのない質問」という3曲。
前半の「ナイーヴ・アンド・センティメンタル・ミュージック」は日本初演、今回アダムズがオルガン・パートを加えた版とのことで16型の弦楽器、ギター、多くの打楽器など大編成のステージだ。第1楽章は「ナイーヴ/センティメンタル」の主題を様々な楽器が奏で、ギターとハープが落ち着いた響きでメロディを支える。気づかぬうちに金管楽器の咆哮まで見事な放物線のようにエネルギーが増していく。それぞれの楽器が主題を変容させても壮大な生態系のように秩序は保たれクリアで豊穣なオーケストラの音に酔いしれた。
第2楽章「人間の母」でもヴィブラフォンやアンティークシンバルの神秘的な高音の響きが、弦楽器や金管楽器に受け継がれて変容する。アダムズは楽器のイメージに囚われることなく、ミニマルの概念を音色の多彩さで拡張しているのだと感じた。ファゴットとギターの哀愁に満ちたソロも印象的。
終楽章「リズムへの連鎖」、一音一音が丁寧に奏でられる指揮で、これこそ作曲家の内面から出る音なのだと思わせる。モザイクのように音が繋がれ、どこをとっても美しいハーモニーと次々と湧き上がる泉のような楽想の変化に45分の大作が短く感じられるほどだった。
後半1曲目はアイヴズの「答えのない質問」。ステージ上には弦楽器、2階左側後方(LBブロック)にトランペット、ステージ後方(Pブロック)にフルート3本とクラリネットというユニークな配置だ。問いを出すトランペットと答えが見つからない木管楽器のやりとり、静謐(せいひつ)で崇高な弦楽器を視覚的にも受け止めながら聴けた。
最後は約80名の合唱を伴う大作「ハルモニウム」はイングランドの詩人ジョン・ダンとアメリカの詩人エミリー・ディキンソンの詩による3楽章構成。
冒頭オーケストラの音と溶け合って聴こえてくる合唱が、柔らかく心地良い。やがてミニマルな音型では器楽的に、メロディにのせた歌詞では言葉を際立たせ、ここでも変容しながら、ステージ上が一体となって壮大な音の坩堝(るつぼ)を生み出していく。ディキンソンの2つの詩は世界観が「死」から「生」へと相対するもので、その2つを繋ぐ移行部分では、静謐なカウベルの響きから低弦の地鳴りのような音を経て万華鏡のように煌びやかで多彩な音に結実する。ユニゾンで歌う声のパワーから結びのコラールまで合唱、オーケストラのカラフルな響きに魅了された。
来年は80歳を迎えるアダムズ、その作品は何度も聴いてみたいと思わせてくれる。それこそが世界中で愛される所以だろう。
(毬沙琳)
公演データ
東京都交響楽団 第1044回定期演奏会Bシリーズ
5月21日(木)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ジョン・アダムズ
ギター:山田岳
キーボードサンプラー:白石准
オルガン:大木麻理
合唱:新国立合唱団
合唱指揮/副指揮:冨平恭平
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:水谷 晃
プログラム
ジョン・アダムズ:ナイーヴ・アンド・センティメンタル・ミュージック(1999)[日本初演]
アイヴズ:答えのない質問(改訂版/1930−35頃)
ジョン・アダムズ:ハルモニウム(1980)
Ⅰ.Negative Love
Ⅱ.Because I Could Not Stop for Death
Ⅲ.Wild Nights
まるしゃ・りん
大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。









