深化を見せた二期会「タンホイザー」再演……24年2月

二期会「タンホイザー」より、題名役はサイモン・オニールが務めた 写真提供:公益財団法人東京二期会/撮影:寺司正彦
二期会「タンホイザー」より、題名役はサイモン・オニールが務めた 写真提供:公益財団法人東京二期会/撮影:寺司正彦

3月の「先月のピカイチ、来月のイチオシ」は2月のステージからピカイチを、4月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。

先月のピカイチ

◆◆24年2月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京二期会 ワーグナー:「タンホイザー」再演〉

2月28日(水)東京文化会館大ホール

アクセル・コーバー(指揮)/キース・ウォーナー(演出)/サイモン・オニール(タンホイザー)/渡邊仁美(エリーザベト)/林正子(ヴェーヌス)他/読売日本交響楽団/二期会合唱団

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〈読売日本交響楽団 第670回名曲シリーズ〉

2月13日(火)サントリーホール

R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番/フランク:交響曲ニ短調

山田和樹(指揮)/シモーネ・ラムスマ(ヴァイオリン)

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~舞台・指揮者・歌手陣揃(そろ)い踏みの二期会「タンホイザー」再演~

「タンホイザー」は初日公演。3年前に上演されたキース・ウォーナー演出版の再演だが、舞台の統一感と流れが向上した。パリ版基本の楽譜を使ったアクセル・コーバー(初来日)の指揮も緊迫感に富んで聴き応えがあり、題名役のサイモン・オニールも抜きん出た声量と迫力ある歌唱で映えた。(名曲シリーズの)山田和樹は、この日が読響首席客演指揮者としての最後の東京公演。「ドン・ファン」やフランクの交響曲を情熱的な、ダイナミックな指揮で締め括(くく)る。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ:「アイーダ」演奏会形式〉

4月17日(水)、20日(土)東京文化会館大ホール

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京春祭オーケストラ/東京オペラシンガーズ

いまや東京春祭のヴェルディ・シリーズに欠かせないリッカルド・ムーティ (C)池上直哉
いまや東京春祭のヴェルディ・シリーズに欠かせないリッカルド・ムーティ (C)池上直哉

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〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス:「エレクトラ」演奏会形式〉

4月18日(木)、21日(日)東京文化会館大ホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)/藤村実穂子(クリテムネストラ)/ルネ・パーペ(オレスト)/アリソン・オークス(クリソテミス)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

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~至幸の機会、ムーティの「アイーダ」~

たとえ演奏会形式上演ではあっても、巨匠ムーティの指揮するイタリア・オペラの超大作「アイーダ」が聴けるなどとは信じられないような幸せな機会だ。先年の「マクベス」や「仮面舞踏会」に劣らぬ圧倒的な演奏が聴けるだろう。「エレクトラ」も楽しみなプログラムで、R・シュトラウスがまだ表現主義的な作風にあった時期の激烈極まる音楽がヴァイグレの指揮でどのような再現されるかに興味が集まる。悪役を歌う藤村実穂子にも注目。

先月のピカイチ

◆◆24年2月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京都交響楽団 第995回定期演奏会C〉

2月22日(木)東京芸術劇場コンサートホール

エリアフ・インバル(指揮)

マーラー:交響曲第10番(クック版)

都響との3度目のマーラー・ツィクルス初回に挑んだエリアフ・インバル (C)堀田力丸
都響との3度目のマーラー・ツィクルス初回に挑んだエリアフ・インバル (C)堀田力丸

〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第575回定期演奏会〉

2月9日(金)フェスティバルホール

井上道義(指揮)/アレクセイ・ティホミーロフ(バス)/オルフェイ・ドレンガー(男声合唱)

J・シュトラウスⅡ世:ポルカ「クラップフェンの森で」/ショスタコーヴィチ:ステージ・オーケストラのための組曲より/同:交響曲第13番「バビ・ヤール」

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~大交響曲の真価を実感した2公演~

インバル/都響のマーラー10番は、マエストロが「死後にマーラーが復活し、人生や死について回想しているような作品」と語る通りの名演。天上的なまでに美しい表現と、緊迫感を保ちながら最高度の機能性を発揮した都響の快奏に、大きな感銘を受けた。これは近年の同コンビの演奏の中でも出色。同プロのN響公演を聴けないため大阪へ足を運んだ井上道義の「バビ・ヤール」は、切れば血が吹き出しそうな生々しさが印象的だった。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ:「アイーダ」演奏会形式〉

4月17日(水)、20日(土)東京文化会館大ホール

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京春祭オーケストラ/東京オペラシンガーズ

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〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス:「エレクトラ」演奏会形式〉

4月18日(木)、21日(日)東京文化会館大ホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)/藤村実穂子(クリテムネストラ)/ルネ・パーペ(オレスト)/アリソン・オークス(クリソテミス)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

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~聴き逃せない東京・春・音楽祭のオペラ公演~

今年の東京・春・音楽祭のオペラはどれも期待十分。中でもムーティ/東京春祭オーケストラの「アイーダ」は、これまでの「マクベス」「仮面舞踏会」の快演を鑑みると、現代最高のヴェルディ演奏(特に管弦楽)に接することができるに違いない。ヴァイグレのオペラ指揮者としての才腕、読響の華麗なサウンドと機能性が生きるであろう「エレクトラ」も、すこぶる楽しみ。共に演奏会形式ゆえに、音楽の真価を実感する好機でもある。

先月のピカイチ

◆◆24年2月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第2004回定期演奏会A〉

2月4日(日)NHKホール

井上道義(指揮)/アレクセイ・ティホミーロフ(バス)/オルフェイ・ドレンガル男声合唱団

J・シュトラウスⅡ世:ポルカ「クラップフェンの森で」/ショスタコーヴィチ:舞台管弦楽のための組曲第1番より/同:交響曲第13番「バビ・ヤール」

2024年で指揮活動を引退する井上のN響とのラスト舞台 写真提供:NHK交響楽団
2024年で指揮活動を引退する井上のN響とのラスト舞台 写真提供:NHK交響楽団

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〈読売日本交響楽団 第635回定期演奏会〉

2月9日(金)サントリーホール

山田和樹(指揮)/藤原道山(尺八)/友吉鶴心(琵琶)

バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/武満徹:「ノヴェンバー・ステップス」/ベートーヴェン:交響曲第2番

 

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~ショスタコーヴィチで有終の美 井上最後のN響定期~

井上最後のN響定期指揮につき、珍しく2日目に出かけた。2016年の定期復帰以来一貫してショスタコーヴィチを手がけ、楽員の深い共感を育んできただけに隅々まで血が通う。虐殺告発よりも犠牲者の魂の救済に目を向けた演奏で、井上の優しさが生きた。読響定期は世界初演者の小澤征爾の訃報が流れた直後に山田が「ノヴェンバー・ステップス」(武満徹)を指揮するという、まさに偶然性の音楽で深い感銘を残した。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ:「アイーダ」演奏会形式〉

4月17日(水)、20日(土)東京文化会館大ホール

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京春祭オーケストラ/東京オペラシンガーズ

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〈広島交響楽団 福山定期Vol.1〉

4月14日(日)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ

クリスティアン・アルミンク(指揮)/ティル・フェルナー(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/R・シュトラウス:「アルプス交響曲」

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~センセーショナルなムーティの「アイーダ」をふたたび~

今や東京・春・音楽祭の「顔」になったムーティのヴェルディ歌劇シリーズ、1975年に初来日した際、デビュー盤として国内発売され、センセーションを巻き起こしたのが「アイーダ」全曲(1974年録音=旧EMI→ワーナー)だった。半世紀を経た今、マエストロの円熟を堪能する好機が訪れた。アルミンクの広響音楽監督就任記念のR・シュトラウス「アルプス交響曲」は2日目、音響の優れた福山市のリーデンローズで聴きたい。

先月のピカイチ

◆◆24年2月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京二期会 ワーグナー:「タンホイザー」再演〉

2月28日(水)東京文化会館大ホール

アクセル・コーバー(指揮)/キース・ウォーナー(演出)/サイモン・オニール(タンホイザー)/渡邊仁美(エリーザベト)/林正子(ヴェーヌス)他/読売日本交響楽団/二期会合唱団

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〈都響スペシャル(2/23)〉

2月23日(金・祝)東京芸術劇場コンサートホール

エリアフ・インバル(指揮)

マーラー:交響曲第10番(クック版)

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~バイロイトの常連指揮者アクセル・コーバー、「タンホイザー」で初来日~

二期会3年ぶりの「タンホイザー」ではバイロイト音楽祭での経験も豊かな指揮者アクセル・コーバーと、題名役を初めて歌う世界的なワーグナー歌手サイモン・オニールが揃(そろ)い、細やかな表情と迫力を併せ持つ名演となった。インバルが都響と三たび取り組むマーラーシリーズ、第10番アダージョで爛熟(らんじゅく)した響きに酔い、死の到来を告げる大太鼓、作曲家の最後の想いを込めたグリッサンドまで生命力に溢(あふ)れるインバルの指揮に圧倒された。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス:「エレクトラ」演奏会形式〉

4月18日(木)、21日(日)東京文化会館大ホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)/藤村実穂子(クリテムネストラ)/ルネ・パーペ(オレスト)/アリソン・オークス(クリソテミス)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

東京春祭で読響との2年越しの「エレクトラ」を形にするセバスティアン・ヴァイグレ (C)読売日本交響楽団
東京春祭で読響との2年越しの「エレクトラ」を形にするセバスティアン・ヴァイグレ (C)読売日本交響楽団

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〈東京・春・音楽祭 ワーグナー:「ニーベルングの指輪」ガラ・コンサート〉

4月7日(日)東京文化会館大ホール

マレク・ヤノフスキ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(ソプラノ)/ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー(テノール)/マルクス・アイヒェ(バリトン)/冨平安希子(ソプラノ)他/NHK交響楽団

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~劇場人ヴァイグレ、念願の「エレクトラ」を豪華歌手と共に~

コロナ禍で延期となったヴァイグレ×読響の「エレクトラ」が遂(つい)に東京春祭で実現する。オペラ指揮者としての並々ならぬ思いと、パンクラトヴァ、藤村実穂子、ルネ・パーペといった世界最高峰の歌声による濃密でドラマティックな演奏が楽しみだ。また春祭のワーグナーで名演を聴かせてきたヤノフスキと前出のパンクラトヴァほか名だたるワーグナー歌手による「リング」のガラ・コンサートも20周年記念にふさわしい企画で聴き逃せない。

先月のピカイチ

◆◆24年2月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈読売日本交響楽団 第635回定期演奏会〉

2月9日(金)サントリーホール

山田和樹(指揮)/藤原道山(尺八)/友吉鶴心(琵琶)

バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/武満徹:「ノヴェンバー・ステップス」/ベートーヴェン:交響曲第2番

武満徹「ノヴェンバー・ステップス」より、友吉鶴心(琵琶)、山田和樹(指揮)、藤原道山(尺八) (C)読売日本交響楽団 撮影=堀田力丸
武満徹「ノヴェンバー・ステップス」より、友吉鶴心(琵琶)、山田和樹(指揮)、藤原道山(尺八) (C)読売日本交響楽団 撮影=堀田力丸

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〈東京都交響楽団 第995回定期演奏会C〉

2月22日(木)東京芸術劇場コンサートホール

エリアフ・インバル(指揮)

マーラー:交響曲第10番(クック版)

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~偶然の一致、世界的マエストロへの予感~

小澤征爾の訃報が伝わった日にノヴェンバー・ステップスの初演時(小澤が指揮)と同一演目となるベートーヴェン2番で山田は大編成のオケを2群に分け、作品に内在する知られざる要素を引き出すなど、小澤に続く世界的マエストロの最有力候補としての存在感を示した。インバルと都響が創出したマーラーの音楽世界はやはり圧巻の説得力があり、これからのシリーズへの期待が膨らむ充実ぶりであった。

来月のイチオシ

◆◆4月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ:「アイーダ」演奏会形式〉

4月17日(水)、20日(土)東京文化会館大ホール

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京春祭オーケストラ/東京オペラシンガーズ

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〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス:「エレクトラ」演奏会形式〉

4月18日(木)、21日(日)

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)/藤村実穂子(クリテムネストラ)/ルネ・パーペ(オレスト)/アリソン・オークス(クリソテミス)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

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~東京春祭、オペラ2公演に熱視線~

4月のイチオシは東京春祭、ムーティ指揮によるヴェルディ「アイーダ」。イタリア・オペラ界の大御所ムーティのヴェルディへのリスペクト、作品に対する深い共感と愛情に裏打ちされた演奏は聴く者の心を揺り動かすこと間違いなしだ。次点はオペラの名匠ヴァイグレによる「エレクトラ」。読響の高い技術力を駆使した密度の濃い演奏が行われるだろう。

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