大植英次指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 第761回東京定期演奏会

大植英次が登場。降板した秋山和慶のプロを引き継ぐ形で指揮をとった Ⓒ山口敦
大植英次が登場。降板した秋山和慶のプロを引き継ぐ形で指揮をとった Ⓒ山口敦
6月の日本フィル定期は、ラザレフがロシア物を披露する予定だったが、指揮者は秋山和慶に、演目はベルクの管弦楽のための3つの小品(リーア編曲 室内アンサンブル版)、R.シュトラウスのホルン協奏曲第2番(独奏は首席奏者の信末碩才)、ドヴォルザークの交響曲第7番に変わった。ところが今度は秋山が骨折で降板。結局、大植英次が同プロを引き継ぐ形で指揮をとった。

金管と打楽器のテクスチャーが明瞭、興趣をそそったベルク

ベルクの室内アンサンブル版は日本初演。超巨大編成の楽曲がスリムに変身するわけだが、打楽器が8人(解説には3人と記されていたが?)もいる編成は、それなりにカラフルだ。ただし、弦が2名ずつと相当少ないので、金管と打楽器の音が圧倒的に際立つ。ゆえに、両者のテクスチャーが普段より明瞭に伝わる点が興趣をそそる結果となった。

ベルクの超巨大編成の楽曲をスリムにした室内アンサンブル版は日本初演 Ⓒ山口敦
ベルクの超巨大編成の楽曲をスリムにした室内アンサンブル版は日本初演 Ⓒ山口敦

R.シュトラウスのホルン協奏曲は、信末のソロが圧巻。冒頭から朗々たる響きで耳を惹きつけ、以後も豊潤な音でスケールの大きな演奏を繰り広げた。速い動きや跳躍なども実にスムーズ。日本のホルン奏者としては稀なほどソリスティックな才腕を示した。

信末が豊潤なホルンの響きでソリスティックな才腕を示したR.シュトラウス「ホルン協奏曲」 Ⓒ山口敦
信末が豊潤なホルンの響きでソリスティックな才腕を示したR.シュトラウス「ホルン協奏曲」 Ⓒ山口敦

重厚かつ振幅の大きな表現でブラームス風のテイストを前面に出したドヴォルザーク「7番」

後半のドヴォルザークは、7番が有するブラームス風のテイストを前面に出した表現。第1楽章から滔々と音楽が流れ、遅い部分はじっくりと運ばれる。この方向性が最も奏功したのは終楽章で、重厚かつ振幅の大きな表現が新鮮な感触をもたらした。とはいえ、弦と管のバランスをはじめとする重層感やフレーズの開始音等により細心の目配りが効いていれば、さらに感銘が増したに違いない。さて2回目の土曜日はどうなるだろうか?
(柴田克彦)

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団 第761回東京定期演奏会
2024年6月7日 (金)19:00 サントリーホール

指揮:大植英次
ホルン:信末碩才(首席奏者)
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

プログラム
ベルク:管弦楽のための3つの小品 Op.6(リーア編曲による室内アンサンブル版/日本初演)
R.シュトラウス:ホルン協奏曲第2番 変ホ長調 AV132
ドヴォルザーク:交響曲第7番 ニ短調 Op.70 B.141

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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