指揮者とオーケストラの個性がせめぎ合う熱演
ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の東京公演2日目。ブルックナーがメインだった初日とは違って、ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、交響詩「海」、ラヴェル「ラ・ヴァルス」と自国のフランス物が並び、ドビュッシー2曲の間にラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(独奏:藤田真央)が挟まれる。
初日のブルックナーがズヴェーデンの出自であるロイヤル・コンセルトヘボウ管を彷彿させる中音充実型の響きだったので、お国物はどうか? と思ったのだが、さすがに「牧神~」ともなると精妙な響きでスタートする。だがじきに充実した中音層が全体を支配し、各楽器の巧みなソロと相まって、いつになく濃密な「牧神~」が展開された。
ラフマニノフの協奏曲は、藤田真央がソフトでいながら実在感のある独奏を聴かせた。それはリリカルにしてロマンティックな趣。加えて高揚する場面のダイナミズムにも事欠かない。本作は、藤田の愛奏曲の1つで、録音も終えたばかりだという。そうした手の内に入った作品であることを実感させる確信に満ちた演奏だった。バックも秀逸な各ソロをはじめ芳醇な好演。ソロのアンコールは、ラフマニノフの歌曲「ここはすばらしい場所」の藤田真央編曲版がしっとりと奏された。
後半の「海」は、デリケートな響きで始まったかと思えば、すぐさまダイナミックに躍動する。この点は「牧神~」と同じだ。中でも第2楽章がかくも動的に表現されるのは珍しい。全体に力感のある“交響”詩を体験したとの思いしきり。次の「ラ・ヴァルス」も、艶美ではあるものの破壊的な刺激や推進力が前面に出される。これは3拍子のワルツというよりも2拍子のマーチのようだ。このアグレッシヴさは曲自体に内包された1つの要素でもあろう。その意味では興味深い演奏だった。
初日の「スラヴ舞曲」で意表をつかれたアンコールは、今日こそフランス物かと思いきや、エルガー「エニグマ変奏曲」の〝ニムロッド〟が重層的でしなやかな弦楽器を中心に披露された。とはいえエレガントな曲だけに本プログラムにもフィットする。
全体に、指揮者とオーケストラの個性がせめぎ合い、結果指揮者が勝利したといった印象。ズヴェーデンは今秋正式に音楽監督に就任するとのことだが、オーケストラの技量はすこぶる高いので、その成果に熱視線が注がれる。
(柴田克彦)
公演データ
ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮 フランス放送フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー2026 2日目 ピアノ 藤田真央
5月28日(木) 19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
ピアノ:藤田真央
管弦楽:フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30
ドビュッシー:交響詩「海」
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ソリスト・アンコール
ラフマニノフ(藤田真央編曲):「ここはすばらしい場所」Op.21-7
アンコール
エルガー:エニグマ変奏曲より第9変奏「ニムロッド」
これからの他日公演
5月29日(金)18:45愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
5月30日(土)14:00京都コンサートホール(京都)
5月31日(日)15:00横浜みなとみらいホール(神奈川)
※各日のプログラム等の詳細は、各ホールの公式サイトをご参照ください。
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










