歴史的名演 東京春祭、ヴァイグレのタクトで「エレクトラ」……24年4月

国内でも演奏機会の少ない「エレクトラ」を名演と言わしめる水準で披露したヴァイグレ&読響とパンクトラヴァほか (C)池上直哉/東京・春・音楽祭2024
国内でも演奏機会の少ない「エレクトラ」を名演と言わしめる水準で披露したヴァイグレ&読響とパンクトラヴァほか (C)池上直哉/東京・春・音楽祭2024

今月は4月に開催されたステージからピカイチを、6月に予定されている公演の中からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきます。この4月は東京・春・音楽祭で20周年にふさわしい名演が数多生み出された一方で在京オケや音楽家の通常公演でも充実の演奏が繰り広げられました。そうした活況の中でピカイチに選ばれた公演は……。

先月のピカイチ

◆◆24年4月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈読売日本交響楽団 第637回定期演奏会〉

4月5日(金)サントリーホール

シルヴァン・カンブルラン(指揮)/金川真弓(ヴァイオリン)

マルティヌー:リディツェへの追悼/バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番/メシアン:キリストの昇天

桂冠指揮者カンブルランとの長年の信頼関係を聴かせた読響 (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
桂冠指揮者カンブルランとの長年の信頼関係を聴かせた読響 (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

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〈関西6オケ!2024〉

4月20日(土)フェスティバルホール

①山下一史(指揮)大阪交響楽団/②尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団/③下野竜也(指揮)兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)/④藤岡幸夫(指揮)関西フィルハーモニー管弦楽団/⑤飯森範親(指揮)日本センチュリー交響楽団/⑥沖澤のどか(指揮)京都市交響楽団

①R・シュトラウス:「ばらの騎士」組曲/②エルガー:エニグマ変奏曲/③ペルト:カントゥス、ブリテン:シンフォニア・ダ・レクイエム/④シベリウス:交響曲第5番/⑤ドビュッシー:海/⑥プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」抜粋

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~読響の弦の美しさ、関西のノリの華やかさ~

読響と、かつての常任指揮者カンブルランとの相性の良さは今なお生きている。弦の音色を含め、透明清澄な美しさに魅了された。一方、「6オケ」は、関西のノリならではの奇想天外なイベントだ。毎年恒例の「大阪4オケ」に今年は京響とPACが参加。各オケが腕を奮って順番に演奏する大スペクタクル。尾高と大フィルが王者の貫禄を示して優勝確実と思いきや、最後に登場した沖澤と京響が猛烈な快演で追い上げ同率首位(?)。客席は熱狂。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 来日演奏会 Aプログラム〉

6月22日(土)兵庫県立芸術文化センター/25日(火)、27日(木)サントリーホール

ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/メトロポリタン歌劇場管弦楽団/エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(バリトン)

ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)

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〈東京フィルハーモニー交響楽団 第1000回オーチャード定期演奏会〉

6月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール

チョン・ミョンフン(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

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~絶好調の「ネゼ=セガンとMET」、その片鱗を披露~

メトロポリタン・オペラにおける音楽監督ネゼ=セガンの獅子奮迅の活躍ぶりはかつてのレヴァインに匹敵するほどだ。「ライブビューイング」で視聴した範囲でも、最近は「ローエングリン」「運命の力」「デッドマン・ウォーキング」「アマゾンのフロレンシア」など快演の連続である。ゆえに、今回のオペラ系プロはきっと素晴らしいだろう。一方、チョンの指揮する「トゥーランガリラ」も作曲者から激賞(げきしょう)された実績があり、期待充分。24日と26日にも同じプロの公演がある。

先月のピカイチ

◆◆24年4月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ「アイーダ」〉演奏会形式

4月17日(水)東京文化会館

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ

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〈読売日本交響楽団 第637回定期演奏会〉

4月5日(金)サントリーホール

シルヴァン・カンブルラン(指揮)/金川真弓(ヴァイオリン)

マルティヌー:リディツェへの追悼/バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番/メシアン:キリストの昇天

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~ムーティが描くヴェルディ・ドラマに納得~

東京春祭の「アイーダ」は、期待値を完璧に満たす演奏ではなかった(特に前半)とはいえ、ムーティが描くヴェルディ・ドラマはやはり圧巻の一語。後半のオーケストラの雄弁な響きも印象的だった。同じくイチオシにあげた東京春祭の「エレクトラ」も好演だったが、次点には、繊細かつ深みのある表現で魅了した名演と、今後もこうした媚のないプログラムを期待したいとの思いから、カンブルラン&読響のコンセプチュアルな公演を。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会〉

6月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール/6月24日(月) サントリーホール/6月26日(水)東京オペラシティ コンサートホール

チョン・ミョンフン(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

東フィル1000回定期の節目にはメシアンのお墨付きをもらったチョン・ミョンフンの指揮で「トゥーランガリラ」を披露 (C)上野隆文 
東フィル1000回定期の節目にはメシアンのお墨付きをもらったチョン・ミョンフンの指揮で「トゥーランガリラ」を披露 (C)上野隆文 

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〈東京都交響楽団 第1002回定期演奏会&都響スペシャル〉

6月28日(金)、29日(土)東京芸術劇場

ヤクブ・フルシャ(指揮)

スメタナ:歌劇「リブシェ」序曲/ヤナーチェク(フルシャ編):歌劇「利口な女狐の物語」大組曲/ドヴォルザーク:交響曲第3番

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~必聴!ホールで聴きたいプログラム2選~

チョン・ミョンフン&東京フィルの公演は、毎回必ずや足を運ぶ甲斐がある。まして作曲者がその演奏を絶賛したメシアンの代表作が演目となれば、文句なしに必聴だ。フルシャ&都響も以前の快演が忘れ難く、特に「レアなチェコ物」の生演奏は、他ではまず聴けないだけに、逃すことができない。6月はこのほか、インバル&都響、ピノック&紀尾井ホール室内管、ベルチャ・クァルテット、METオーケストラ等、注目公演が目白押し。

先月のピカイチ

◆◆24年4月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス「エレクトラ」〉演奏会形式

4月18日(木)東京文化会館大ホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)、藤村実穂子(クリテムネストラ)、アリソン・オークス(クリソテミス)、シュテファン・リューガマー(エギスト)、ルネ・パーペ(オレスト)他/新国立劇場合唱団/読売日本交響楽団

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〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ「アイーダ」〉演奏会形式

4月17日(水)東京文化会館

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ

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~話題の「アイーダ」VS「エレクトラ」、後者に軍配~

ともに同じ音楽祭の20周年を記念したオペラ4作の演奏会形式上演の枠組み。ピットからは聴取できない管弦楽の妙を細大漏らさず堪能できるメリットも大きいが、いかにマエストロやオーケストラが優れていても、オペラの生命線が歌手に左右される基本を変えることはできない。題名役だけを比べてもエレクトラのパンクラトヴァは、アイーダのシーリより遥かに優れていた。アンサンブル全体のバランス、一致した水準という点でも、エレクトラ組に軍配を上げたい。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 来日演奏会 Aプログラム〉

6月22日(土)兵庫県立芸術文化センター/25日(火)、27日(木)サントリーホール

ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/メトロポリタン歌劇場管弦楽団/エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(バリトン)

ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)

13年ぶりのMET管の来日はオペラ達者な同オケならではのプログラムも話題 (C) EVAN ZIMMERMAN
13年ぶりのMET管の来日はオペラ達者な同オケならではのプログラムも話題 (C) EVAN ZIMMERMAN

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〈東京フィルハーモニー交響楽団 第1001回サントリー定期〉

6月24日(月) サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)/務川慧悟(ピアノ)/原田節(オンド・マルトノ)

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

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~話題性十分 MET管13年ぶりの来日公演~

METオーケストラはメトロポリタン歌劇場の音楽監督がフランス系カナダ人のネゼ=セガンに替わってから初めての来日だ。ワーグナー、ドビュッシー、バルトークを1夜に収めただけでも面白いのに「ペレアスとメリザンド」は往年の巨匠指揮者ラインスドルフの管弦楽編曲、「青ひげ公の城」の独唱にガランチャ、ヴァン・ホーンと話題性にも事欠かない。東京フィル名誉音楽監督チョンはパリ・オペラ座&フランス国立フィルのシェフ時代、作曲家メシアンから薫陶を受けた「トゥーランガリラ交響曲」に挑む。

先月のピカイチ

◆◆24年4月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス「エレクトラ」〉演奏会形式

4月18日(木)東京文化会館大ホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)、藤村実穂子(クリテムネストラ)、アリソン・オークス(クリソテミス)、シュテファン・リューガマー(エギスト)、ルネ・パーペ(オレスト)他/新国立劇場合唱団/読売日本交響楽団

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〈東京都交響楽団 プロムナードコンサート〉

4月21日(日)サントリーホール

ペッカ・クーシスト(指揮・ヴァイオリン)

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」/ベートーヴェン:交響曲第7番

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~東京春祭20周年に意義深いエレクトラ~

「エレクトラ」は2005年東京春祭の衝撃的な幕開けを飾った作品。今回のヴァイグレと読響は近年ワーグナー作品で音楽的に密な関係を深めてきただけあって、デモーニッシュで濃厚な管弦楽と舞台さながらの歌の響宴で音楽祭の歴史に残る名演となった。
異彩を放つヴァイオリンのクーシストが都響と臨んだ「四季」は、奏者全員がジャムセッションしているようなスリリングで心を奪われる演奏。そこにはスコアを超える音楽の歓びがあった。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京都交響楽団 定期演奏会〉

6月4日(火)サントリーホール/5日(水)東京芸術劇場

エリアフ・インバル(指揮)

ブルックナー:交響曲第9番

インバル&都響はブルックナーの9番をニコラ・サマーレら4名の研究に基づくSPCM版の第4楽章付きで演奏 (C)堀田力丸/東京都交響楽団提供
インバル&都響はブルックナーの9番をニコラ・サマーレら4名の研究に基づくSPCM版の第4楽章付きで演奏 (C)堀田力丸/東京都交響楽団提供

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〈新国立劇場 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」〉

6月1日(土)、2日(日)、4日(火)新国立劇場オペラパレス

飯森範親(指揮)/ダミアーノ・ミキエレット(演出)

セレーナ・ガンベローニ(フィオルディリージ)/ダニエラ・ピーニ(ドラベッラ)/九嶋香奈枝(デスピーナ)/ホエル・プリエト(フェルランド)/大西宇宙(グリエルモ)/フィリッポ・モラーチェ(ドン・アルフォンソ)/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

モーツァルト:「コジ・ファン・トゥッテ」イタリア語上演/字幕付

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~巨匠インバルの挑戦&注目のバリトン大西宇宙~

都響第1000回定期に、今年2月にも同団で生命力あふれるバーンスタインやマーラーを振ったインバルが登場、ブルックナーの9番を日本初演となるフィナーレ(第4楽章)付きで披露する。作曲家の生誕200年イヤーならではの挑戦はいかに。新国立劇場の「コジ・ファン・トゥッテ」はミキエレット演出のポップな設定の裏に深い人間の感情を描いた舞台の再演。抜群の表現力が光る大西宇宙、コケティッシュな九嶋香奈枝にも期待。

先月のピカイチ

◆◆24年4月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

※ 2公演同率

〈東京・春・音楽祭 ヴェルディ「アイーダ」〉演奏会形式

4月17日(水)東京文化会館

リッカルド・ムーティ(指揮)/マリア・ホセ・シーリ(アイーダ)/ルチアーノ・ガンチ(ラダメス)/ユリア・マトーチュキナ(アムネリス)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ

ヴェルディ・オペラの伝道師ムーティによる「アイーダ」も話題に (C)池上直哉/東京・春・音楽祭2024
ヴェルディ・オペラの伝道師ムーティによる「アイーダ」も話題に (C)池上直哉/東京・春・音楽祭2024

〈東京・春・音楽祭 R・シュトラウス「エレクトラ」〉演奏会形式

4月18日(木)東京文化会館大ホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/エレーナ・パンクラトヴァ(エレクトラ)、藤村実穂子(クリテムネストラ)、アリソン・オークス(クリソテミス)、シュテファン・リューガマー(エギスト)、ルネ・パーペ(オレスト)他/新国立劇場合唱団/読売日本交響楽団

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なし

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~甲乙つけ難し ムーティの「アイーダ」とヴァイグレの「エレクトラ」~

ムーティの「アイーダ」を聴いた時点で、予想を超える歴史的名演(詳細は速リポにアップした拙稿をご覧ください 東京・春・音楽祭2024 ムーティ指揮 ヴェルディ「アイーダ」)にピカイチはこれで決まりと確信していた。ところが翌日、ヴァイグレ指揮の「エレクトラ」にも度肝を抜かれた。R・シュトラウスに不可欠なち密さとこの作品ならではの爆発的なエネルギーを兼ね備えたこれまた超名演が披露されたからである。両公演に甲乙つけ難く、よって次点なしで2公演を同点ピカイチとしたい。

来月のイチオシ

◆◆6月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈メトロポリタン歌劇場管弦楽団 来日公演〉

6月25日(火)、26日(水)、27日(木)サントリーホール ※東京公演

ヤニック・ネゼ­=セガン(指揮)/エリーナ・ガランチャ(ユディット、25・27日)/クリスチャン・ヴァン・ホーン(青ひげ、25・27日)/リセット・オロペサ(ソプラノ、26日)

(25、27日)ワーグナー:「さまよえるオランダ人」序曲/ドビュッシー(ラインスドルフ編):「ペレアスとメリザンド」組曲/バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式)

(26日)モンゴメリー:すべての人のための讃歌/モーツァルト:アリア「私は行きます、でもどこへ」「ベレニーチェへ」/マーラー:交響曲第5番

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〈サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン ウェールズ弦楽四重奏団〉

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲ツィクルス

6月8日(土)~15日(土)サントリーホール ブルーローズ(10、14日は公演なし)

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~MET管、豪華演目で豊かな表現力を堪能~

メトロポリタン歌劇場オケの日本公演は13年ぶり。音楽監督のネゼ=セガンの棒の下、ガランチャらスター歌手を帯同させての豪華な演目。競争の激しい米国のオケの上手さとオペラで培った豊かな表現力を堪能したい。次点は初夏恒例のサントリーホールの室内楽の祭典。目玉のベートーヴェン・ツィクルスを今年はミュンヘン国際音楽コンクールで3位に輝くなど日本の若手カルテットの旗手的存在であるウェールズ弦楽四重奏団が担うのが注目される。

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