ノット&東響「エレクトラ」 昨年の「サロメ」に続く凄演……23年5月

ノットと東響のR・シュトラウスシリーズ第2弾「エレクトラ」(C)N.Ikegami
ノットと東響のR・シュトラウスシリーズ第2弾「エレクトラ」(C)N.Ikegami

「先月のピカイチ、来月のイチオシ」、今月は5月のステージからピカイチを、7月開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきます。

先月のピカイチ

◆◆5月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 来日公演〉

5月9日(火)東京オペラシティ コンサートホール
クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)/佐藤晴真(チェロ)
ウェーバー:「魔弾の射手」序曲/ドヴォルザーク:チェロ協奏曲/ブラームス:交響曲第2番

首席指揮者エッシェンバッハとともに4年ぶりの来日を果たしたベルリン・コンツェルトハウス管 (C) 2/FaithCompany
首席指揮者エッシェンバッハとともに4年ぶりの来日を果たしたベルリン・コンツェルトハウス管 (C) 2/FaithCompany

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〈読売日本交響楽団 第628回定期演奏会〉

5月31日(水)サントリーホール

上岡敏之(指揮)/エリソ・ヴィルサラーゼ(ピアノ)
シベリウス:交響詩「エン・サガ」/シューマン:ピアノ協奏曲/ニールセン:交響曲第5番

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~伝統的な響き今なお ベルリン・コンツェルトハウス管~

ベルリン・コンツェルトハウス管は久しぶりに聴く「良きドイツ」の伝統的な響きが感動的。このスタイルのみが最高だという意味ではないが、このような陰影に富むあたたかいブラームスが今なお健在だということがうれしい(別稿「アンコール」参照)。上岡と読響は、ニールセンの5番での激烈で鮮烈な演奏をたたえる。やはり上岡は、今のところ日本では読響と組んだ時にのみ、その真価を発揮することができるようである。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会〉

7月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール/27日(木)東京オペラシティ コンサートホール/31日(月)サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)/グレゴリー・クンデ(オテロ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/小林厚子(デズデーモナ)/新国立劇場合唱団、他
ヴェルディ:歌劇「オテロ」(演奏会形式)

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〈佐渡裕プロデュースオペラ モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〉

7月14日(金)~23日(日)※18日、21日を除く 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

佐渡裕(指揮)/デヴィッド・ニース(演出)/兵庫芸術文化センター管弦楽団/大西宇宙、ジョシュア・ホプキンズ(ドン・ジョヴァンニ)/平野和、ルカ・ピサローニ(レポレッロ)他 ※ダブルキャスト
モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 

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~チョン&東フィルの演奏会形式オペラ「オテロ」に期待~

2022年の「ファルスタッフ」が天馬空を行く感の快演だったチョン・ミョンフンの指揮、今回の「オテロ」は劇的な起伏がすごいオペラだから、いっそう迫力に富む演奏になるだろう。ベテランのクンデがどのようなオテロを聴かせてくれるか。一方、西宮の「佐渡オペラ」もこのところ毎年好調で、今年は外来歌手勢もいいが、それよりも最近日の出の勢いにある爽やかなバリトン、人気の大西宇宙が題名役を歌うのに注目したい。

先月のピカイチ

◆◆5月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京交響楽団特別演奏会 R・シュトラウス:歌劇「エレクトラ」〉

5月12日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/サー・トーマス・アレン(演出監修)/クリスティーン・ガーキー(エレクトラ)/ハンナ・シュヴァルツ(クリテムネストラ)/シネイド・キャンベル=ウォレス(クリソテミス)/フランク・ファン・アーケン(エギスト)/ジェームス・アトキンソン(オレスト)他

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〈生誕100年バースデー!リゲティに感謝を込めて…第2夜〉

5月29日(月)トッパンホール

トーマス・ヘル(ピアノ)/福川伸陽(ホルン)/毛利文香(ヴァイオリン)/赤坂智子(ヴィオラ)/クァルテット・インテグラ
リゲティ:ピアノのためのエチュード第1巻/弦楽四重奏曲第2番/無伴奏ヴィオラ・ソナタ/ホルン、ヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲「ブラームスへのオマージュ」

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~まれにしか体験できない、ノット&東響の凄絶な「エレクトラ」~

ノット&東響の「エレクトラ」は、昨年の「サロメ」に続くR・シュトラウスの大規模オペラの名演。終始ハイテンションで緊迫感に充ちた音楽を創造するノット、渾身(こんしん)の演奏で応える東響、強靭(きょうじん)かつ壮絶な歌唱で圧倒したガーキー以下粒ぞろいの歌手陣……この上なく凄絶(せいぜつ)な音楽ドラマが展開された。次点は、新国立劇場の「リゴレット」や国内各オケの公演などかなり迷ったが、高精度の演奏でリゲティのすごみを明示したトッパンの公演に。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会〉

7月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール/27日(木)東京オペラシティ コンサートホール/31日(月)サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)/グレゴリー・クンデ(オテロ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/小林厚子(デズデーモナ)/新国立劇場合唱団、他

チョン・ミョンフンと東フィルの演奏会形式オペラ、7月定期ではヴェルディの「オテロ」を取り上げる (C)上野隆文
チョン・ミョンフンと東フィルの演奏会形式オペラ、7月定期ではヴェルディの「オテロ」を取り上げる (C)上野隆文

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〈フェスタサマーミューザKAWASAKI2023東京交響楽団 オープニングコンサート〉

7月22日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)
チャイコフスキー:交響曲第3番「ポーランド」/チャイコフスキー:交響曲第4番

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~国内オーケストラの創造性に満ちた公演に期待~

音楽自体の醍醐味(だいごみ)を伝える東京フィルの演奏会形式オペラは、毎回が必聴だ。チョン・ミョンフンの 「オテロ」は、マエストロがCDでも名演を残している演目ゆえに、迫真のドラマが展開されること必至。昨年の「ファルスタッフ」の快演からも期待値は高い。ノット&東響は、同コンビがいかなるチャイコフスキーを聴かせてくれるのか? 興味津々。またこれは、工夫された公演が並ぶフェスタサマーミューザ全体へのエールでもある。

先月のピカイチ

◆◆5月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈新国立劇場 ヴェルディ「リゴレット」新制作〉

5月31日(水)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/エミリオ・サージ(演出)/ロベルト・フロンターリ(リゴレット)/ハスミック・トロシャン(ジルダ)/イヴァン・アヨン・リヴァス(マントヴァ公爵)/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団、他
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」

10年ぶりの新国立劇場での新制作上演となった「リゴレット」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
10年ぶりの新国立劇場での新制作上演となった「リゴレット」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

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〈東京交響楽団特別演奏会 R・シュトラウス:歌劇「エレクトラ」〉

5月14日(日)サントリーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/サー・トーマス・アレン(演出監修)/クリスティーン・ガーキー(エレクトラ)/ハンナ・シュヴァルツ(クリテムネストラ)/シネイド・キャンベル=ウォレス(クリソテミス)/フランク・ファン・アーケン(エギスト)/ジェームス・アトキンソン(オレスト)他

次点同点

〈大瀧拓哉ピアノ・リサイタル〉

5月12日(金)サロン・テッセラ

ジェフスキ:ノース・アメリカン・バラード(バラード第1番~4番)/バラード第5番「男を不機嫌にさせるには時間がかかる」/同6番「ハウスワイフの嘆き」

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~新国立劇場「リゴレット」 高い完成度で魅了~

次点2公演が元々イチオシだったが、新国立劇場10年ぶりの新制作「リゴレット」がその上を行った。衣装の具象と装置の抽象、赤と青の色彩など明確なコントラストの上に登場人物それぞれの「孤独のシンフォニー」を描くサージ演出、ベルカントの基本に忠実で〝イタオペ〟の熱気を自然に引き出すベニーニの指揮と、題名役フロンターリの演唱が高い完成度を実現した。「エレクトラ」も指揮と題名役は良かった。大瀧のジェフスキは鬼気迫る名演だった。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈佐渡裕プロデュースオペラ モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」〉

7月14日(金)~23日(日)※18日、21日を除く 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

佐渡裕(指揮)/デヴィッド・ニース(演出)/兵庫芸術文化センター管弦楽団/大西宇宙、ジョシュア・ホプキンズ(ドン・ジョヴァンニ)/平野和、ルカ・ピサローニ(レポレッロ)他 ※ダブルキャスト
モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

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〈名古屋フィルハーモニー交響楽団 第87回市民会館名曲シリーズ〉

7月22日(土)日本特殊陶業市民会館フォレストホール

ジョゼ・ソアーレス(指揮)/中野りな(ヴァイオリン)
モーツァルト:ディヴェルティメント第3番/サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番/メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」

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~「佐渡オペラ」題名役に注目~

今年の「佐渡オペラ」はあえて日本人キャストで。大西宇宙のタイトルロール全曲デビューをウィーンで活躍する平野和(レポレッロ)ら演技巧者のチームが盛り上げてくれるはずだ。名古屋フィルの名曲コンサートでは2021年の第19回東京国際音楽コンクール〈指揮〉第1位のジョゼ・ソアーレス、2022年の第8回仙台国際音楽コンクールに史上最年少の17歳で優勝した中野りなのフレッシュな共演に期待。

先月のピカイチ

◆◆5月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈読売日本交響楽団 第628回定期演奏会〉

5月31日(水)サントリーホール

上岡敏之(指揮)/エリソ・ヴィルサラーゼ(ピアノ)
シベリウス:交響詩「エン・サガ」/シューマン:ピアノ協奏曲/ニールセン:交響曲第5番

コペンハーゲン・フィルのシェフも務める上岡らしく、ニールセンなどデンマークの作品をプログラミング (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
コペンハーゲン・フィルのシェフも務める上岡らしく、ニールセンなどデンマークの作品をプログラミング (C)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

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〈新国立劇場 R・シュトラウス:歌劇「サロメ」〉

5月27日(土)新国立劇場オペラパレス

コンスタンティン・トリンクス(指揮)/アウグスト・エファーディング(演出)/アレックス・ペンダ(サロメ)/イアン・ストーレイ(ヘロデ)/ジェニファー・ラーモア(ヘロディアス)/トマス・トマソン(ヨハナーン)/東京フィルハーモニー交響楽団、他

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~音楽が伝える希望の光と人間の狂気~

上岡敏之が指揮した読響定期、前半ヴィルセラーゼをソロに迎えたシューマンのピアノ協奏曲では、作曲家の叙情性を存分に歌い、80歳にしてなおも自然体で生命力あふれる演奏から希望の光を放つ。後半のニールセンでは一転、現実世界の混沌とした不条理を描き、命を削るようなタクトが夢と現実を行き来した。新国の「サロメ」、トリンクスの指揮で管弦楽がまさに爛熟(らんじゅく)の境地へ誘い、トマソン他歌い手たちもこの作品の狂気を見事に表現した。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈日本フィルハーモニー交響楽団 第752回東京定期演奏会〉

7月7日(金)、8日(土)サントリーホール

広上淳一(指揮)/笛田博昭(カニオ)/池内 響(シルヴィオ)/竹多倫子(ネッダ)/小堀勇介(ペッペ)/上江隼人(トニオ)/東京音楽大学(合唱)、杉並児童合唱団(児童合唱)
レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」(演奏会形式)

正指揮者、そしてフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)と、繋がりを深める広上と日フィル (C)山口敦
正指揮者、そしてフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)と、繋がりを深める広上と日フィル (C)山口敦

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〈東京都交響楽団 都響スペシャル(7/14)&プロムナードコンサート(7/15)〉

7月14日(金)、15日(土)サントリーホール

アラン・ギルバート(指揮)/キリル・ゲルシュタイン(ピアノ)
ニールセン:序曲「ヘリオス」/同:交響曲第5番/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

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~音楽界の未来へつなぐ日フィル×広上のオペラ・シリーズ~

21年9月より日本フィルのフレンド・オブ・JPO(芸術顧問)に就任した広上淳一が当団と手がけるオペラ・シリーズの「道化師」。若手歌手を抜てきし、合唱も東京音大という音楽界の未来に貢献する取り組みに期待。

生誕150年記念のラフマニノフは演奏会でも大人気だが、名ピアニスト、キリル・ゲルシュタインが3番のピアノ協奏曲を披露、前半でニールセンの交響曲5番をアラン・ギルバートと都響で聴けるというのも楽しみだ。

先月のピカイチ

◆◆5月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京交響楽団特別演奏会 R・シュトラウス:歌劇「エレクトラ」〉

5月12日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/サー・トーマス・アレン(演出監修)/クリスティーン・ガーキー(エレクトラ)/ハンナ・シュヴァルツ(クリテムネストラ)/シネイド・キャンベル=ウォレス(クリソテミス)/フランク・ファン・アーケン(エギスト)/ジェームス・アトキンソン(オレスト)他

次点

〈新国立劇場 ヴェルディ「リゴレット」新制作〉

5月28日(日)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/エミリオ・サージ(演出)/ロベルト・フロンターリ(リゴレット)/ハスミック・トロシャン(ジルダ)/イヴァン・アヨン・リヴァス(マントヴァ公爵)/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団、他
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」

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~「エレクトラ」期待を超える凄演~

5月のピカイチには迷うことなくノット&東響による「エレクトラ」を挙げたい。昨年大評判を呼んだ「サロメ」は聴けなかったが、今回も期待を超える〝凄演(せいえん)〟であった。詳細は当サイトの拙稿をご覧いただきたい(陰うつな世界観、多彩な表情であらわに ノット&東響「エレクトラ」 | CLASSICNAVI)。次点は新国の「リゴレット」。題名役のフロンターリら粒ぞろいの歌手陣、サージの美しい舞台、ベニーニと東フィルの表情豊かな演奏と三拍子そろった心躍るステージ。日常の中でこうした上演が行われることこそ新国の存在意義である。

来月のイチオシ

◆◆7月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京フィルハーモニー交響楽団 7月定期演奏会〉

7月23日(日)Bunkamuraオーチャードホール/27日(木)東京オペラシティ コンサートホール/31日(月)サントリーホール

チョン・ミョンフン(指揮)/グレゴリー・クンデ(オテロ)/ダリボール・イェニス(イアーゴ)/小林厚子(デズデーモナ)/新国立劇場合唱団、他

次点

〈東京都交響楽団 定期演奏会A (7/19)&都響スペシャル(7/20)

7月19日(水)、20日(木)東京文化会館大ホール

アラン・ギルバート(指揮)/シュテファン・ドール(ホルン)
ウェーベルン:夏風の中で—大管弦楽のための牧歌、モーツァルト:ホルン協奏曲第4番、R・シュトラウス:アルプス交響曲

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~チョン&東フィルの信頼関係、迫真の演奏に期待~

チョン&東京フィルの厚い信頼関係から紡ぎ出される音楽は、楽想を深く掘り下げ、作曲家の思いに肉薄しようとするのが魅力である。「オテロ」でも登場人物の心のひだにまで踏み込むような迫真の演奏を聴かせてくれるに違いない。次点はギルバートと都響。両者の相性も抜群。メインのアルプス交響曲は今年、佐渡&新日本フィル、パーヴォ&N響も取り上げ、高水準の演奏を聴かせているだけに、それらと比較してみるのも面白そうだ。

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