藤田のモーツァルトは絶品! 次期音楽監督ズヴェーデン率いるフランス放送フィルへの期待が高まったブルックナーの見事なフィナーレ
フランス放送フィルがヤープ・ヴァン・ズヴェーデンとともに来日した。ズヴェーデンは今年9月に就任が予定される、オランダ出身の次期音楽監督である。
日本公演初日のこの日の前半は、藤田真央を独奏とするモーツァルトのピアノ協奏曲第21番。弦5部は12-10-8-6-3、12型だがコントラバスを一人減らし、いわゆるピアノ配置でチェロが舞台上手の手前に座る。その奥にヴィオラという配置なので、低音がしっかりと聞こえる音づくりになる。全体としてはすっきりとした響きで、軽快なテンポで進むなかに、藤田のピアノが入ってくる。ピアノ・ソナタでもそうだが、藤田のモーツァルトは絶品だ。軽やかで流麗で、生気に満ちている。オーケストラのやわらかい響きともよく合う。自作と思しきカデンツァも心地よい。
客席の喝采に応えてひき始めたアンコールは、藤田自らの編曲で、ワーグナーの歌劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から、ワルターの優勝歌〝朝はばら色に輝いて〟に歌劇全体のフィナーレをつなげていくもの。リスト風だが音を叩かず、きれいに鳴り響かせて最後を盛りあげる。モーツァルトの後にワーグナーは意外な感じもするけれど、次の曲がワーグナーに大きな影響を受けたブルックナーの交響曲第7番であることを思えば、自然につながってくる。心憎い、センスのよい選曲。
さてそのブルックナー。こちらはフル編成の16型で安定感のある響きだが、音楽が波動して聴衆を一緒に大きく呼吸させるので、停滞感はなく、気持ちよく、充実感とともに進んでいく。響きはまろやかで、金管もうまく溶け込んで、耳ざわりにはならない。このまろやかさは、いかにもオランダ風だ。とはいえ混濁することはなく、各パートの存在感は確保される。4本のワグナーチューバも、舞台下手奥のホルン群とは反対の上手奥に配置され、立体的に響きあう。第2楽章のクライマックスで鳴り響くシンバルとトライアングルも、全体から突出するようなことはなく、サウンドの一部分を形成する。
大きく歌わせた前半の第1、2楽章に対し、後半の2つの楽章は力感と動感に富んだ、推進力のある演奏となった。前半にくらべて後半が軽い、などといわれることもある作品だが、そうとは感じさせない、たくましい見事なフィナーレだった。アンコールのドヴォルザークのスラヴ舞曲第1集の第8番も、同様に力強い演奏。
ズヴェーデン就任後に来るだろう、充実の日々を期待させる演奏会。28日に演奏されるフランス音楽も楽しみだ。
(山崎浩太郎)
公演データ
ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー2026 1日目 ピアノ 藤田真央
5月27日(水) 19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
ピアノ:藤田真央
管弦楽:フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調(ノーヴァク版)
ソリスト・アンコール
ワーグナー(藤田真央編):「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕より〝朝は薔薇色に輝いて〟およびフィナーレ
アンコール
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲 第8番 Op.46
他日公演
5月28日(木)19:00サントリーホール(東京)
5月29日(金)18:45愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知)
5月30日(土)14:00京都コンサートホール(京都)
5月31日(日)15:00横浜みなとみらいホール(神奈川)
※各日のプログラム等の詳細は、各ホールの公式サイトをご参照ください。
やまざき・こうたろう
演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。










